iPSがまた一歩前進した。京都大学の研究チームがヒトiPS細胞からII型肺胞上皮細胞の分化誘導と単離というプロセスを確立した。これにより、これまで難しかったヒトの細胞を使った肺の再生研究や様々な難治性疾患の研究に踏み込める大きなチャンスが到来したという。
京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学講座の三嶋理晃教授の研究グループは、同学iPS細胞研究所増殖分化機構研究部門の長船健二准教授、同医学研究科腫瘍生物学講座の小川誠司教授らの研究グループと共同研究を行ない、ヒトiPS 細胞から肺胞前駆細胞への分化を経て、世界で初めてヒトiPS細胞由来の肺胞上皮細胞を単離する方法を確立した。
ヒトiPS/ES細胞から目的の細胞を手に入れるためには発生のプロセスに従って分化誘導させることが標準的な手法と考えられている。しかし、分化誘導方法を確立するためには段階を経るごとに低下しがちな誘導効率の問題をいかに克服するかが重要とされてきた。
今回、三嶋理晃教授らの研究グループは、肺胞上皮細胞の前段階に当たる肺胞前駆細胞を単離濃縮できるような表面蛋白質の同定が重要と考え、まずは未分化なヒト iPS/ES細胞を分化させ肺胞前駆細胞を効率よく誘導できる条件を検討した。その結果、Carboxypeptidase M (CPM)という抗体が有用な表面蛋白質であることを突き止めた。
また、肺胞を作るのに不可欠なII型肺胞上皮細胞の分化誘導に目標を定め、この細胞に特異性の高いSurfactant Protein C(SFTPC)の遺伝子座に蛍光タンパク質である GFP を導入し、分化すると光るヒト iPS 細胞を作成した。さらに、CPMを使って単離した肺胞前駆細胞を3次元培養することで肺胞上皮細胞を分化誘導し、GFPを使ってII型肺胞上皮細胞を単離できることも示しました。肺胞の形成に不可欠なII型肺胞上皮細胞の分化誘導と単離が可能になったことで、今後の肺の再生研究だけでなく、肺胞上皮細胞の異常が引き金になると考えられている呼吸器難病の病態の理解や難病治療薬の開発を含めた創薬研究に向け、大きな一歩となることが期待されるとした。
とにかく、実用化に向けて順調に進んでいることはうれしいことだ。今回は肺の再生ということだが、これらを含めたヒト他の部分や臓器を再生する技術の早期実現を願いたい。(編集担当:慶尾六郎)