いまさら聞けない「パワー半導体」の基本、次世代半導体のコト

2014年11月13日 10:19

SiC Power Module

SiC(炭化ケイ素/シリコンカーバイト)を使った新世代の半導体。写真は京都のロームがCEATECで自動車用として展示したサンプル。SiCに次ぐ半導体素材は、窒化ガリウム(GaN)やダイヤモンドが有力だ

 ここ2~3年で、「パワー半導体」という単語があちこちで囁かれるようになった。半導体はパソコンに限らず家電などに内蔵されたコンピュータ情報を記憶、システム制御に用いる小さなチップを想像する。なかで「パワー半導体」は、まさに“力”を制御する半導体だという印象を持つ。

 ここで言う「パワー半導体」はパソコンに限らず、洗濯機やエアコン、冷蔵庫や炊飯器などの“白モノ家電”などで、外部や電池から供給される電気の直流・交流変換や電圧、周波数を調整するなど最終製品を効率よく働かせるためのパーツだ。つまり、エアコンの温度調節や風量をきめ細かく調整したり、洗濯機の攪拌速度や洗濯時間をコントロールしている部品がそれだ。「パワー半導体」を利用することで、効率的な電力利用が可能で、省エネルギーにも効果があるとされる。

 そこにはパワー半導体を使った「インバータ」というシステムが組み込まれている。かつて日本のエアコンは心臓部のコンプレッサーのモーター回転を一定としながら、「冷房or冷房休止」をオンオフしながら温度調整していた。現在、ほぼ100%普及したとされる日本のインバータ内蔵エアコンは、コンプレッサーのモーター回転速度を連続的に変えて温度調整をきめ細かく行ない、室温を一定に保つ。このインバータ採用効果で、日本国内のエアコン消費電力は50%ほど削減出来るようになったとされている。

 そのインバータに組み込まれる「パワー半導体」に大きな変化が起き始めている。半導体といえば、1980年代から日本やアメリカが大量生産をスタートさせた「シリコン(Si)」素材の半導体だった。が、シリコンを使った半導体の生産は、いまでは完全に新興国が握っている。コスト競争で日本などは太刀打ちできないからだ。

 ところで、インバータとは何か? 単純に表現すると「直流電流(DC)を交流電流(AC)に変換する電気回路」だ。反語がコンバータで、交流を直流に換える。小さなノート型パソコンにも、USBやBluetoothなど出力するべき必要な電力に応じた、幾つもの半導体が必要だ。

 そこで、インバータの能力が細分化多様化するなかでシリコン素材の半導体の限界が見えてきた。そこで台頭してきたのが新素材を使った「パワー半導体」だ。いま、その主役を担うのが「炭化ケイ素(シリコンカーバイト/SiC)」を使った素子だ。SiCパワー半導体のメリットは何か? 大雑把な表現だが、「大きさが同じ、シリコン製半導体と炭化ケイ素(SiC)半導体では、SiC半導体は10倍以上の高電圧でも作動する。極端に表現すると、従来の電圧なら体積を10分の1にでき、発熱量も少ないためコントロールユニットの大幅な省スペース化が可能となる。また、電力損失もシリコン製に比べて大幅に減少するというのだ。

 すでに国内ではSiCパワー半導体を京都ロームや三菱電機、東芝などが実用化し、三菱と東芝は東京メトロの電車用主要電源インバータ用として納品している。ロームでは、SiCパワー半導体の採用で自動車を統合制御するECUなどを「小さく出来て、冷却し易い」ことから、次世代プラグインハイブリッド車(PHV)や燃料電池車(FCV)などで高電圧・高出力電力をコントロールするための素子として必要不可欠とされ、量産に乗り出している。トヨタ自動車などでは自社開発するとして注目されている。

 いいことずくめのSiCパワー半導体だが、問題はコスト。まずは高価格でも対応可能な鉄道、ハイブリッド車など必要不可欠な高価格自動車から採用。高級家電への採用拡大、そして量産効果での波及となろう。この分野では、完全に日本企業が先行している。

 SiCの次の世代の半導体にも注目が集まっている。今年、ノーベル賞物理学賞受賞で一躍注目を集めた「青色発光ダイオード(LED)」の材料、窒化ガリウム(GaN)で、ガリウムナイトライド(Gallum Nitride)とも呼ばれる素材だ。高電圧に対する要素ではSiCを上回り、パナソニックなどが開発を進めている。

 日本政府でもパワー半導体を日本の基幹産業に育てようと動く。内閣府はシリコンカーバイトおよび窒化ガリウム製半導体を2015年までに実用化を目指す研究を支援。また、環境省は窒化ガリウム製半導体の早期実用化を支援する。

 矢野経済研究所の調べによると、現在のパワー半導体の世界市場は約150億USドルだが、2020年には300億USドルに急拡大するという。(編集担当:吉田恒)