総理が目指す国の姿 総理は中身を提示すべき

2015年01月03日 12:25

 安倍晋三総理は2015「年頭所感」で「改革断行の1年にしたい」と岩盤規制を打ち砕き、新たな経済発展への道を見いだすため、既得権益団体、勢力の圧に屈することなく突き進んでいく決意を示した。経済最優先を色濃く打ち出している。

 そこで忘れてはならないのは、諸々の規制には経済発展を阻害する要因になっている面もあるが、規制は完全な自由競争下に置くより、それ以上に社会的に守ることのほうが大切との理由があってのものということも忘れてはならない。

 医薬品製造・販売に法規制があるのは、安心して服用できる医薬品を作るには厳格な製造条件の下で製造する必要があるためであり、価格競争一辺倒で製造されることになれば粗悪品が出回る可能性も否定できず、研究開発への影響も否定できない。

 医薬品の服用においても一定条件の下(年齢や服用する時間、服用量など)で服用しなければ副作用が怖い。そのため服用指導や説明をする必要から薬剤師や登録販売者でなければ販売できないことになっている。規制に合理的根拠が存在していることを忘れてはならない。

 今年、安倍総理は労働法制の見直しに再び挑む考えだ。労働基準法など労働者を守る諸々の規制(労働法制)は雇用者と被雇用者という現実社会において均等な立場になることが難しい力関係を踏まえ、被雇用者を保護する、あるいは雇用者側に守らせるべきルールを定めている。

 企業・経営者の論理からすれば、労働法規の見直しを図り、人件費を抑え生産性を高める雇用形態が期待されるだろう。しかし、労働法制を岩盤規制と位置付けるのは、様々な労働法が生まれた歴史的経緯を踏まえれば間違っている。

 見直すなら「同一労働同一賃金」の法定の担保、最低賃金時給1000円の実現を前提にすべき。時給1000円のパート労働者が1日8時間、1か月22日就労したとして、17万6000円にしかならない。これくらいの所得が得られる雇用環境は、まさに「先人たちが高度経済成長を成し遂げ、日本は世界に冠たる国(世界中で最も優れた水準の国)になりました」(安倍総理の2015年年頭所感)というレベルの国なら、実現されてしかるべきだろう。

 戦後70年の歩みで、日本は高度経済成長期に、そこから生じた経済至上主義の弊害を修正し、社会のセーフティネットとして社会福祉政策の充実を忘れることなく「修正資本主義の道を歩んできた」。

 今、日本という概念ではなく、地球にともに住まうものとして、人類がともに支え合い、足りない部分を補い合いながら心身ともに豊かな暮らしが実現できるよう、政府は日本国民の平和な暮らしと世界の平和に出来得る貢献を果たしていくことが必要であり、日本が歩んでいくべき道なのだろう。

 安倍総理は年頭所感で「日本は先の大戦の深い反省のもとに、戦後、ひたすら平和国家としての道を歩み、世界の平和と繁栄に貢献してきた。その来し方を振り返りながら、次なる80年、90年、100年に向けて、日本がどういう国を目指し、世界にどのような貢献をしていくのか。私たちが目指す国の姿を、この機会に、世界に向けて発信し、新たな国づくりへの力強いスタートを切る。そんな一年にしたい」と決意表明している。

 その精神をふまえ、安倍総理には「目指す国の姿」を国民に分かり易く示して頂きたいと願う。目指そうとしている国の姿を世界に発信する前に、国民にこそ発信すべき。

 経済においては「日本を企業が世界で最も活動しやすい国にする」と安倍総理は何度となく強調してきた。

 経済以外の分野での日本の姿を安倍総理は「・・・の国」と表現してこなかった。どういう国の姿を描き、国民から支持を得たいのか。

 安倍総理は第3次安倍内閣組閣後の会見で憲法改正への環境づくりを進めることを語った。だとすれば、安倍総理にとって、めざす国の姿とは自民党が憲法改正草案前文で示す「国民統合の象徴である天皇を戴く国家」として「天皇を元首と規定し、国民主権、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する」国づくりなのか。

 「日本国民は国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる」国づくりをめざすということか。

 自民党の憲法草案前文からは、現行憲法の「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し」という政府の行為によって戦争を引き起こしてしまった歴史的記述が削除され、「わが国は先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する」と大戦勃発要因がどちらにあったのかが消されている。

 こうした史実を残すことが自虐的との見解もあるようだが、なぜ、日本が平和主義を特に大原則としているのか、その意味を子子孫孫に継承すること、あわせて、大切に遵守しなければならないことを知らしめる意味から、この史実は継承すべきと感じる。

 今年を新たな日本のスタートの年にしたいとするなら、現行憲法に貫かれている「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」の3原則を遵守し、その延長に、今後築かれていく「世界の中の日本の姿」がどのようなものなのか。「新たな国づくりへの力強いスタートを切る」(安倍総理)前に、目指す国の姿を国民に明示してからスタートしてほしい。(編集担当:森高龍二)