老化に伴う動体視力低下のメカニズムがわかった

2015年02月08日 15:21

 大阪大学 蛋白質研究所 分子発生学研究室の古川貴久教授と佐貫理佳子助教らの研究グループは6日、網膜視細胞のシナプスが正常な位置に形成されるしくみを明らかにし、動体視力に必須であることを示したと発表した。この成果は神経回路において神経細胞のシナプスが一定の位置に形成される意義を明らかにし、また高齢ドライバーの運転能力低下への関与が考えられている老化に伴う視覚能力の低下のメカニズムの解明につながるものだという。

 網膜や脳などの中枢神経組織では特定の決まった場所でシナプス(神経細胞同士の結合部)を形成していることが19世紀始め頃から既に知られていたが、シナプスは神経細胞同士が正常に結合していればその場所自体は特に機能に関係していないと考えられてきた。一方で、網膜では老化に伴って視細胞のシナプス位置が移動することが知られていた。神経回路の発生においてシナプスが決まった場所で形成される必然性はあるのか、あるとすればその機能的意義は何か、その分子メカニズムは何であるのか、老化網膜におけるシナプス位置の移動は視覚機能に影響するのか、などは適切なモデル動物が存在せず解明が進んでいなかった。

 同研究グループは、網膜視細胞のシナプス形成の研究から、視細胞のシナプス側の膜輸送に関わる4.1Gタンパク質を同定した。4.1G欠損マウスの網膜では、本来、細胞体層の外側にある外網状層注に形成されるはずの視細胞のシナプスが細胞体のそばで異所性に形成されていることを見出した。さらにシナプスの位置の異常は4.1Gタンパク質を介した膜輸送機能が低下することによって生じることを明らかにし、4.1G欠損マウスにおいては動体視力が低下していることも見出した。これらの結果から、4.1Gタンパク質が視細胞のシナプスの位置決定に必須であることを明らかにするとともに、シナプスが一定の場所で形成されることが正常な視覚機能に必須であることを証明した。

 今回の成果から、網膜のシナプス位置の維持は正常な視覚機能に重要であることが明らかになった。また、同グループでは、高齢者の加齢による視機能低下のメカニズムの解明に貢献するだけでなく、脳において正常な神経回路と脳機能を維持する手段を見つけるための手がかりになるとしている。(編集担当:慶尾六郎)