大阪市立大学、アルツハイマー病の新しい治療薬となる抗体を開発

2015年01月14日 10:57

 大阪市立大学は1月8日、大学院医学研究科の富山貴美准教授らのグループがアルツハイマー病の新しい治療薬となる抗体を開発したと発表した。

 アルツハイマー病の原因は完全には明らかにされてないが、βアミロイドタンパクが細胞外にたまってできる「老人班」と、タウタンパクが過剰にリン酸化され細胞内にたまってできる「神経原線維変化」という2つの病理変化が現れ神経細胞が破壊されて発症すると考えられている。しかし、これまでは主にアミロイドβを標的とする薬が開発されてきたが、大きな有効性のある薬は開発されていない。より効果的な認知症の治療には、今後アミロイドβを標的とする薬とタウを標的とする薬の併用療法が主流になるものと考えられている。今回開発された抗体はタウを標的とする薬の有力な候補になると期待されるという。

 認知症のこれまでの研究では、まずβアミロイドタンパクが凝集して脳に沈着し、次に過剰リン酸化されたタウが凝集・蓄積し、その後神経細胞は死に始め、最後に認知症が発症することがわかっている。そのため、アルツハイマー病の原因はβアミロイドタンパクの凝集・沈着であるという考えが生まれ、βアミロイドタンパクを抑えたり、脳からの除去を促進する薬が主に開発されてきた。しかし、これらの薬はヒトでの臨床試験では有効性が確認されず、その多くが開発中止となっている。

 この理由として考えられるのは、発症した後にいくらβアミロイドタンパクを除去しても、すでに多くの神経細胞が死んでしまった後ではもはや手遅れであるということを示している。そこで、βアミロイドタンパクによる老人斑はアルツハイマー病が発症する20年以上も前から脳に現れ始めることが最近の研究で明らかになっており、老人斑が検出された時点でβアミロイドタンパクの標的薬の投与を開始する治療が世界で始まっている。

 一方で、治療の標的を別のタンパク質に変える動きも出てきており、その代表がタウで、タウによる神経原線維変化は神経細胞死や認知機能障害と密接に結びついていることが知られている。今回、開発された抗体をマウスに投与した動物実験では、脳で過剰リン酸化されたタウが減少し、神経細胞間のシナプスが回復し、マウスの記憶障害も改善したという。

 厚生労働省の推計によると、団塊の世代が75歳以上になる2025年には、65歳以上の5人に1人になる。認知症は本人だけでなく家族をも巻き込むだけに今後大きな社会問題となる。認知症の早期発見は、発症を遅らせ、通常の日常生活を送ることに効果的であるが、単なる老化現象と勘違いされ早期発見に至らないことが多い。今回の抗体開発が認知症発症後にどれほど効果的であるかは、現時点では明確になっていないが、少しでも回復できることが期待される。(編集担当:阪木朱玲)