ヒトの顔を正常に認識するために必要な脳内ネットワークとは

2015年03月17日 11:49

 顔認知は言語認知と同様に、人間が社会生活を送る上で非常に重要な脳機能だが、これまで十分には、そのメカニズムは解明されてこなかった。今回、自然科学研究機構生理学研究所の松吉大輔研究員(現所属:東京大学)、柿木隆介教授、定藤規弘教授らの研究グループは、顔を認識している時の人間の脳活動を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)に用いて詳細に解明した。

 人間は、顔が逆さまになっていると、それを正確に認知することが大変困難になり、「倒立顔効果」として知られている。松吉研究員らは、正立顔と倒立顔を認知する時の脳活動の相違を比較した。

 通常、顔認知機能は、他の物体認知機能とは独立して脳内に存在することが知られている。しかし今回の研究で、正立顔の認知の場合には、物体認識に関わる脳部位が抑制される一方、倒立顔ではこの抑制が行われておらず「顔か物体か分からない」状態になっていることがわかった。つまり、顔認識に不要な部位を抑制して、必要な部位だけを活動させるようにすることが、正常な顔認識にとって必要であることを明らかにした。

 ヒトは物の認識が非常に得意であり、明るさなどの見え方が変わっても、それがそれであると簡単に分かる。しかし、それは逆向きの顔には通用しない。本研究では、この現象が生じる脳内メカニズムを調べました。この現象を調べることで、目に入る情報は全く同じなのに、うまく顔認識ができない理由を知ることができると考えた。
 
 機能的磁気共鳴画像法(fMRI)によりヒトの脳のどの場所が活動しているかを知ることができるが、「どこ」だけでは、脳全体としてどのように働いているかは分からない。そこで、今回の研究ではさらに脳での信号の流れをモデル化することで、脳が「どのように繋がっているか」その脳内ネットワークを調べた。

 また、ヒトの脳では、顔認識に関わる部位と、物体認識に関わる部位が別々の場所に分かれて存在している。研究の結果、通常の向きの顔では物体認識に関わる脳部位が抑制を受けて「物ではなく顔とはっきり分かる」のに対し、逆向きの顔では抑制が行われていないために「顔を物としても処理してしまう」曖昧な状態になっている可能性が示された。また、このような抑制の一方で、顔認識を担う複数の領域間の協調(繋がり)が顔認識の成績と関連していることが明らかになった。つまり、顔認識には不必要な部位を活動させないようにしつつ、顔認識部位だけをうまく働かせることが、正常な顔認識にとって重要であることがわかったという。(編集担当:慶尾六郎)