百貨店大手の三越伊勢丹ホールディングス(HDと東急百貨店は3月9日、2007年3月からスタートさせていた両社の業務提携を今年3月末で解消すると発表した。
これまで三越伊勢丹HDは東急百貨店に社長を派遣し、営業ノウハウを提供するなど、情報システムやカード事業の統合も目指していた。が、提携効果が乏しいことから提携を打ち切る。2008年秋のリーマンショック後に経営環境が悪化した東急百貨店は、経費がかかるシステム統合よりも自前での収益改善を優先させることとしたわけだ。
三越伊勢丹HDから東急への役員派遣も今後は行なわない。旧伊勢丹出身で現・東急百貨店の二橋千裕社長は、三越伊勢丹の専務執行役員を3月末で退任し、東急の社長職に専念する。伊勢丹が東急側に派遣している人材の処遇は今後検討する。
旧伊勢丹は、2007年に東急百貨店と東京急行電鉄を加えた3社で提携した。ところが翌年の2008年4月に旧三越と経営統合した。これには驚かされたアナリストも多い。旧伊勢丹は東京・渋谷の商圏獲得を見据えていたが、2008年に旧三越と統合。東急百貨店との協力範囲は広がらなかったことが理由だ。
三越伊勢丹HDは2005年から提携していた名鉄百貨店ともクレジットカードや情報システムでの連携を解消するなど、他流通グループとの協力を縮小している。
三越伊勢丹HDは新宿や銀座、日本橋などにある都内の大型店を中心にした成長戦略を描いている。一方、東急百貨店は東急電鉄と連携し、JR渋谷駅前から代官山への再開発事業などに注力する。渋谷の商業施設に雑貨店などが入る大型店「シンクス」を開業するなど、専門店事業も拡大する。
三越伊勢丹HDは伊勢丹・新宿本店でリビング用品や子供服などを扱う5~6階の改装を終え、3月4日に開業した。2013年に始まった大規模リニューアルが、ほぼ終了した。従来の売り場リニューアルの延長から脱し、教育、医療、婚礼といったサービス業強化を推し進める。物販からソフト販売事業への転換で、百貨店の常識を変革する。売上高2600億円超の同社旗艦店の競争力を高める。
今回の伊勢丹・新宿本店の改装投資額は100億円を超えた。利益の源泉である本店の改装で、サービスや実体験を楽しむソフト販売につなげる売り場へと大きくシフトした。専用教室を設け、教育サービスにも参入した。デザイン、音楽、語学などが学べる。講師には、音楽評論家のピーター・バラカン氏、ミュージシャンの角松敏生氏などを招き、一般的なカルチャースクールとはひと味違った教室を提供する。未就学児向けなどでもユニークなカリキュラムを開発、需要はあると見込んでいる。
また、今年1月には高級ツアーを扱う旅行専門会社を設立し、7月にサービスを開始する。婚礼サービスではM&A(合併・買収)によって参入を図る。診療所や薬局などを集めたメディカルモールも2016年度をメドに開業する。こうしたソフト事業で、3年後をめどに売上高1000億円規模を目指すという。
伊勢丹・新宿本店の2013年度の売上高は2654億円に上る。2位は阪急うめだ本店(大阪市)の1922億円で、伊勢丹本店が圧倒的な強さを誇る。かつてのバブル経済の1980年代後半頃には、西武池袋店、三越日本橋本店と共に年間3000億円の売上が目指せるとされた3大百貨店だったが景況は大きく変化した。
三越伊勢丹HDの2014年度連結売上高は1兆2800億円と2013年度比3%減少する見込み。消費増税後に需要が戻らず、地方店が苦戦するなど百貨店事業は伸び悩む。同HDにしても、2014年度見込みで350億円の営業利益を2018年度に500億円以上とする中期目標の達成は簡単ではない。
百貨店業界には、訪日客によるインバウンド需要の増加、株高の恩恵を受けた富裕層の購買など、久々にフォローの風が吹いている。今回目指すソフト販売によるサービス事業は、単なる物販の付随的商売ではなく、本格的に収益を上げる商品にする新しい試みだ。
三越伊勢丹など大手百貨店5社が先般発表した2月の売上高(既存店ベース、速報値)は、そろって増収だった。中華圏の旧正月にあたる「春節」効果で訪日客が大幅に伸び、都心の主要店では免税品の売上が2~5倍になった。昨年の消費増税前の駆け込み需要を上回る好調ぶりだ。
しかしながら、昨年3月は消費増税前の駆け込み需要が大きく膨らみ、各社は売り上げが2~3割増だった。このため今年3月の売上は、大きな反動減が見込まれている。(編集担当:吉田恒)