【今週の展望】アメリカ雇用統計が雲を吹き払い5月の青空か?

2015年05月10日 20:20

 8日発表のアメリカの4月の雇用統計は、非農業部門雇用者数の伸びが22.3万人で、12.6万人と極端な悪化を示しマーケットにショックを与えた3月の雇用統計が「異常値」だったことを改めて印象づけた。失業率は3月から0.1ポイント低下し5.4%で、2008年5月以来約7年ぶりの低い水準。どちらも市場予測の範囲内で、雇用は依然しっかりしていると確認されてアメリカ景気への懸念が遠のき、かといって早期利上げ観測が出るほど良すぎるわけでもなく、株価の押し上げにはちょうどいい〃ゴルディロックスな〃数値で8日のNYダウは267ドルの大幅続伸。為替はドル高でドル円は一時120円にタッチ。CME日経平均先物清算値は19655円だった。

 英国の総選挙の結果、与党保守党が単独過半数を占めるという株式市場にとっての「慶事」もあり、13日の4月の小売売上高が期待通りに復調すれば、今週のNY市場はひと皮むけたようなマーケットになるだろう。

 東京市場のほうは3月期決算が第2のピークを迎える。市場予測を下回った8日のトヨタ<7203>の今期業績見通しが象徴していたように、総じて言えば外需型の製造業はたとえ増収増益でも「今期は前期ほどの好業績にならない」という見通しが目立つ。為替の円安の勢いが停滞気味で、新興国の景気減速と通貨安、ヨーロッパ経済の不振、今年中にありそうなアメリカの利上げの影響への懸念などが影を落としている。トヨタもそうだが個別株の株価は自社株買いの発表など株主還元策で上昇しても、今期業績見通しの減速ムードが今週の株価指数の上値を抑えるかもしれない。13日の景気ウォッチャー調査は1月調査から好転しているが、4月調査分で変調をきたせばそれも下げ要因になるだろう。今週は、以前はSQ週の下落からの反発で調子が良かった「SQ後週」になるが、直近の8ヵ月は4勝4敗と分が悪くなっている。

 とは言っても、海外株式市場、為替など外部環境の好転はやはり追い風で、テクニカル的にみても前々週と前週の合計640円安によって状況は良くなっている。日経平均の8日終値19379.19円のテクニカル・ポジションを確認すると、25日移動平均線の19701円、5日移動平均線の19556円よりも下にある。8日に25日線と5日線は「ミニ・デッドクロス」した。しかし75日移動平均線は25日線とのデッドクロスにはほど遠い18846円で、200日移動平均線は17201円にある。

 75日線を内包して上昇してきた日足一目均衡表の「雲」は18185~19264円にあり、前週はスレスレまでいっても「雲タッチ」はしなかった。今週は15日にその上限が19354円まで、下限が18614円まで上昇し、下値が19300円を割れば確実に雲タッチする。この雲の上昇は5月末まで続き、月末には上限は19726円まで上がり、下限も19000円台に乗る。もし「セル・イン・メイ(5月に売れ)」で日経平均の停滞が続いたらローソク足は完全に雲の中に取り込まれるが、雲の上昇は下値支持線の上昇という意味では悪くない。

 ボリンジャーバンドでは8日終値は25日線-2σの19085円と-1σの19393円の間にあり、少しだけローポジション。買われすぎ、売られすぎを判断するためのオシレーター系指標を見ると、25日移動平均線乖離率は-1.63%、25日騰落レシオは99.21、RSI(相対力指数)は36.9、12日サイコロジカルラインは50.0で買われすぎでも売られすぎでもないニュートラルだが、ストキャスティクス(9日・Fast)が10.13、RCI(順位相関指数)が51.7で「売られすぎ」を示している。売られすぎのシグナル点灯は久しぶりに見ること。それだけテクニカル的には下値は限定的で、上値はけっこう上まで上昇できると考えられる。

 日経平均は、防衛線(サポートライン)になりそうなものが19200円台に集中している。下値を支えるパターンの「まぼろしのSQ」が出現した5月のSQ値19270円、日足一目均衡表の「雲」の上限の19264円、3月のSQ値19225円がそれで、3本揃っている。日経平均2万円を目指す高値取りが2月から3ヵ月も続いたおかげで、今週は下げたとしてもわき上がってきた雲のクッションに救われて、下値は5月SQ値よりも上の19300円と想定する。大型連休明けで海外の悪材料をたっぷり織り込んで239円の大幅安を喫した前週7日の安値も、19257円だった。

 一方、上値のメドは25日線-1σの19393円も5日線の19556円もやすやすと超えて25日線の19701円も突破し、19800円もありうると想定する。なぜなら前週はアメリカ雇用統計への警戒心がまるで漬物石のように日経平均の上値を抑えていたからで、安心できるような結果が出てその重しが取れたら反発でドンとはね上がる。「株式市場は常に行き過ぎる」(クロード・ローゼンバーグ)という格言もある。条件次第ではザラ場中「まさかの2万円タッチ」も見られるかもしれない。

 ということで、今週の日経平均終値の変動レンジは19300~19800円とみる。前週はアメリカのマクロ経済指標が悪化し、欧米の長期金利が上昇し、要人発言に右往左往するなど「不安」の雲が世界のマーケットをおおっていたが、「最後にやってきた大物指標」アメリカ雇用統計がその雲をサッと吹き払ってくれた。ルイーザ・メイ・オルコットもルイ・アラゴンも言っているように、雲の向こう側はいつも青空だ。