街に増殖しはじめた奇妙なウイスキー樽。その正体は?

2015年05月30日 19:39

 近ごろ、役所や公的な施設を中心に、その出入口付近などに「樽」のようなものを見かけることが増えてきた。ウイスキー樽に蛇口が付いているようなものから、ポリバケツにホースが付いたようなものまで、形状は様々だが、これらはみな、屋根から流れる雨水を集めて溜めておく雨水タンクだ。

 雨水タンクがにわかに増えているのは、全国的なエコ意識の高まりだけでなく、昨年4月に2つの法律が公布されたことが大きく影響していると思われる。その2つの法律とは、「雨水の利用の推進に関する法律」(以下「雨水利用推進法」)と「水循環基本法」だ。

 水は言うまでもなく、生物が生きていくために無くてはならない命の源だ。さらに人間社会にとっては、飲水だけでなく生活や産業で活用される貴重な資源でもある。地球上には約14億立方kmもの水が存在しているといわれているが、淡水はその約2.53%にすぎない。さらにその大部分は氷河や流氷という形で存在していることを考えると、実際に利用できる水の量は限られていることが分かる。

 日本は世界的にみても非常に水に恵まれた国だ。最近では浄水器やペットボトル等のミネラルウォーターが人気を集めているが、決して水道水を飲用できないわけではない。家庭の蛇口をひねればそのまま飲めるし、例えば、期間限定ではあるものの、大阪市などでは浄水設備を改善したことをアピールするために水道水をペットボトルに充てんして販売するような地区もある。国連の水資源報告書によると、世界の約7億人もの人が、水不足の状況で生活し、不衛生な水しか得られないために年間約180万人の子どもたちが亡くなっているといわれる中、世界的にみても、これは非常に珍しいケースといえるだろう。

 とはいえ、日本の水事情も決して安泰というわけではない。国土交通省が発表している統計によると、日本で利用可能な水の量は4100億立方mほど。国連では一人当たり1年間に最低限必要な水の量を1700立方mとしていることを考えると、それほど大きな余裕があるとは言いがたい。そこで、限りある水資源を有効利用するために上記の法律が制定され、その具体的な手段の一つとして注目されているのが、雨水を貯留して再利用する雨水利用だ。

 最近では、異常気象や災害時の水不足などを懸念して、一般家庭でも非常時の水資源確保に対する関心が高まっている。雨水タンクを設置する家庭も増え、住宅メーカーなどでも積極的に提案を行っているようだ。太陽光発電システムの屋根貸し共同事業プランなど、地域密着型の住宅メーカーならではのユニークなユーザー目線の取り組みで人気のアキュラホームも、雨水タンクの提案に力を入れている業者の一つだ。同社の担当者によると、やはり昨年から雨水タンクの問い合わせが徐々に増えてきているという。平常時にはガーデニングや掃除に利用でき、いざというときには家族を守る非常用水になるということで、防災対策の面での口コミ効果なども大きいようだ。また、雨水タンクの設置に補助金を出している自治体も多く、上手に利用すれば、負担も少なくて済むというから驚きだ。

 雨水利用推進法は「雨水は流せば洪水、受けてためれば資源」という考え方にたった法律だが、法律で規定されるまでもなく、水はかけがえのない大切な資源。水資源に恵まれた日本に住む我々だからこそ、どこよりも水を大切に考えた暮らしを心がけたいものだ。(編集担当:藤原伊織)