「うまい、はやい、やすい」という吉野家ホールディングス<9861>の運営する「吉野家」が掲げるこのキャッチ-コピーは、そのまま牛丼チェーンに対する世間のイメージとなっていると言ってしまってもいいだろう。それはこのキャッチコピーが秀逸なためでもあるが、それ以上に、牛丼チェーンを利用する人たちの目的を的確に言い表しているためでもあるだろう。(筆者も含む)牛丼チェーンの利用者たちは、ワンコインでお釣りが返ってくるメニューであるにもかかわらず「費用対効果」が高く、ほかの飲食店よりも早くて安いことに大きな魅力を感じて、あしげくそこに通い続けているわけだ。ただし、それは「かつて」の話である。かつて、ともすれば「安ければ、安いほどいい」と思われていた牛丼チェーンだが、今は「安さ」だけではお客を呼び込めなくなっている。これは牛丼チェーン、そして飲食業界だけに限った話ではないが、「安さ」という価値だけではなく、それ以外の「付加価値」が求められるようになっている。
こうした傾向を受けて、「吉野家」でも先日、女性客を呼び込むために牛肉を使わずに野菜をふんだんに使用した「ベジ丼」の販売を一部の店舗で開始したが、28日、夏の定番メニューである「鰻丼」をグレードアップさせた「鰻重」を6月1日より発売するとの発表を行った。「鰻重」で使用される鰻は、中国・広東省の専用池でシラスから育てた厳選品で、切り身も以前よりも大きくなっているという。単品の価格は税込みで750円で、昨年までの「鰻丼」よりも20円高くなるが、品質向上などの「付加価値」を強くアピールすることで、同時期の同様のメニューを展開する他社との差別化をはかりたい考えだ。
「鰻重」では単品以外にも、味噌汁と漬物が付いたセットを820円で販売。そのほか、切り身が2枚の「二枚盛」(単品1150円、セット1200円)や3枚の「三枚盛」(単品1650円、セット1720円)なども用意している。
「うまい、はやい、やすい」はもはや、過去の話なのかもしれない。多少値がはっても、「うまい」ものを食べたい、それが今のお客の要望なのかもしれない。そうした今のお客の要望に応え、店に呼び込むためにも、ますます牛丼チェーンの「高級化」傾向は進行しそうな気配だ。(編集担当:滝川幸平)