デフレ脱却が課題となった外食産業

2014年12月31日 11:33

画・【2014年振り返り】 デフレ脱却が課題となった外食産業

2014年最もブームとなった外食に「熟成肉」が上がった。吉野家では牛丼を熟成肉に切り替え、高級路線を打ち出した。このままデフレ脱却へと舵を切りたいところだが、消費者の大部分は景気回復の実感に乏しく、依然として「安さ」を求める傾向が強い。

 カカクコム<2371>は口コミグルメサイト「食べログ」で2014年の外食に関するアンケートを実施した。最も気になったものは何かを尋ねると、「熟成肉ブーム」という回答が18.2%でトップとなった。続いて「『俺の」系列レストラン」が14.3%、「パンケーキブーム」10.7%、「ランチパスポート」9.6%、「ウイスキーブーム」5.7%、「ちょい飲みブーム」5.5%という順になった。調査は11月18日~21日の期間にインターネットを用いて行われ、食べログ登録ユーザー1万6,398人の回答をもとに集計された。

 熟成肉とは温度湿度などを管理した貯蔵庫で長期熟成した肉のこと。微生物がタンパク質をアミノ酸に分解することによってうま味が増し、熟成の過程で繊維もほぐれるため肉質が柔らかくなる。外食産業ではこの熟成肉を使い、新メニューを打ち出す動きが一斉に広がった。

 4月には吉野家<9861>が牛丼に使用している肉を熟成肉に切り替えると発表。米国から輸入している冷凍牛肉をすぐに加工するのではなく、冷蔵庫で2週間ほど保管し熟成を進めてから加工する方針に変更した。デニーズや松屋<8237>でも熟成肉が取り入れられたが、そこには高級路線へと転換を図る方策があったようだ。

 松屋が7月に熟成肉を使用して提供したのは「プレミアム牛めし」。価格は税込380円で、通常の価格帯よりも100円上乗せした計算になる。取扱店は主に関東1都6県と限定された地域に留まっているが「プレミアム牛めし」を販売している店舗では「牛めし」(税込290円)の取扱いを中止した。

 牛丼チェーン各社では、デフレに伴う低価格競争の激化で、ぎりぎりのラインまでメニューの値段を下げている。しかし近年、円安の影響で物価が上昇。仕入れコストが上がり、さらに人手不足によって人件費の負担も増大した。安く大量に商品を売りさばくだけでは経営が難しくなっているというのが現状だ。客離れを起こさないように配慮しながら、デフレ路線脱却を図る必要に迫られている。コストを抑えながら「プレミアム」な商品を発案するには、「熟成肉」はまさにうってつけだったのだ。

 高級路線が打ち出されているその一方で、もうひとつのブームとなったのが「ちょい飲み」である。「熟成肉」と対照的だったのは、安さが勝因となったことだ。吉野屋での導入を皮切りに、ガストやサイゼリヤ、バーミヤンなどのファミリーレストラン業界も参入。ガストは170店限定でグラスワインを99円(税抜き)で提供、サイゼリアでは93円(税抜き)となっている。居酒屋と比較すると格安でアルコールが飲める「ちょい飲み」は、会社員の新たな憩の場となり、人気を集めた。

 円安や人手不足により経営コストが上昇している企業にしてみれば、じわりと高級路線にシフトしていきたいところだが、物価高により実質賃金が低下している消費者は依然として「安さ」を求める傾向であることに変わりはない。しかし12月17日、吉野家はついに牛丼の値上げを実施。約27%の価格上昇となる。企業努力だけでは物価上昇のコストを吸収できず、値上げへと至った。価格改定はやむを得ない選択だったが、これにより客離れが起きるおそれがある。大きな不安材料を抱えたまま年を越すことになりそうだ。(編集担当:久保田雄城)