集団的自衛権 安倍政権に許される選択肢

2015年06月06日 11:44

EN-a_036

「集団的自衛権行使容認」の閣議決定とこれに基づく安保法案が4日の衆議院憲法審査会で参考人出席したすべての憲法学者により正当性を否定された。

 「集団的自衛権行使容認」の閣議決定とこれに基づく安保法案が4日の衆議院憲法審査会で参考人出席したすべての憲法学者により正当性を否定された。憲法改正手続きを経なければできない「集団的自衛権の行使容認」を『解釈改憲』で実行し、そのもとですすめた法案は「憲法違反」で、国会は違憲法案を審議していることになる。

 違憲なら、効力を持たない。自民・公明は(1)現憲法下において許される範囲で切れ目ない安全保障法制を再検討するか、(2)集団的自衛権行使容認の必要を分かり易く国民に政策提起し、来年夏の参議院選挙で多数議席を獲得し、憲法改正を発議し、必要な改正を成し遂げるしか道がないことを提起されたことになる。

 4日の衆議院憲法審査会には民主党推薦の憲法学者、維新の党推薦の憲法学者と与党推薦(自民・公明)の長谷部恭男早大教授が参考人出席した。

 その際、与党推薦の長谷部教授でさえ、「集団的自衛権の行使が許されるというのは憲法違反だ」と明言した。

 長谷部教授は「従来の政府見解の基本的論理の枠内では説明がつかない」と断言したばかりか「法的安定性を大きく揺るがす」と政府の対応を指摘した。さらに「外国の武力行使と一体化する恐れが極めて強い」とも語った。

 自民党内では「人選ミス」との批判も出ているようだ。菅義偉官房長官は「合憲とする学者もたくさんいる」と反論するが、昨年7月1日の集団的自衛権に対する憲法解釈変更の閣議決定時から「解釈改憲」との批判が相次いだ。

 歴代自民党政権でも「集団的自衛権は有するが、現行憲法下では行使できない」としてきた。その憲法解釈の妥当性が改めて示された格好だ。3人の学者の見解は政治的色彩から外れ、客観的な解釈論から導き出された結論といえよう。

 集団的自衛権の行使容認に関する日本政府というより、安倍政権の姿勢は、総理就任直後に訪米し、オバマ大統領との会談の中で自ら見直しを伝えた時点から始まってきたことだ。その後、解釈変更を閣議決定し、法案作りを急がせ、国会審議に入るまでに安保法案を「この夏までに成就させる」と米上下両院合同会議で演説してきた。

 安倍総理の安保法制の見直しと教育改革・とりわけ道徳教育や歴史教育、教科書検定での政府見解の記述の強要姿勢など、「真の日本人になるための教育の推進」(2011年9月、都内会合へのメッセージ)などと発信する、これまでの動きから安倍総理が目指す環境づくりに右傾化への懸念が払拭できない。

 審議中の安保法案に対し国民の理解を広めるため、自民党は「平和安全法制の整備」のチラシ、約80万枚をつくった。

 「武力行使する際の厳しいルール『新3要件』(1、我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある。2、これを排除し、我が国の存立を全うし国民を守るために他に適当な手段がない。3、必要最小限度の実力行使にとどまるべき)を満たしたうえに、国会の承認も必要となる」と歯止め効果を説明している。

 しかし、安保法制の見直しでアメリカと一体化する日本に陥らないか、危惧を払拭するレベルではない。チラシのQアンドAでは「集団的自衛権って、例えば何をするのですか」との設問を設け「重要な海峡が機雷で封鎖されて日本への石油やガスが途絶え、国民の生死にかかわる明らかな危険がある場合、停戦前でも機雷の除去作業ができるようになります」と説明する。ホルムズ海峡での機雷掃海だ。これをもって日本の存立危機事態といえるのか。国会でさらに突っ込んだ議論が必要だ。

 また、チラシは「集団的自衛権の行使は、憲法と平和安全法制で日本独自の厳しいルールを定め、日本防衛のための自衛の措置として、新3要件を満たす場合に限っている。仮にアメリカから、要件に該当しない武力の行使の要請があったとしても、断るのは当然です。かつての湾岸戦争やイラク戦争のようなものに自衛隊が参戦することは絶対にありません」と記している。

 しかし、集団的自衛権の行使が限定的にも現行憲法下で認められるとした場合、要請を断って同盟国としての信頼関係が維持されるのか、かなり疑問と言わざるを得ない。

 産経新聞の古森義久ワシントン駐在客員特派員が「安保法制・日本の敵は日本か」とのタイトルで5月30日付けの紙面にリポートする中で「米国側は超党派でもう20年も日本の集団的自衛権解禁を切望してきた。日本が集団的自衛権禁止を理由に米軍の後方支援も含めて完全に非協力、外部に立った場合、現実の有事では、日米同盟はその時終結すると断言する米側関係者は多かった。日米安保の米側からの破棄という意味だった」旨を紹介している。

 これが現実だろう。安倍総理は米国側の「切望」を踏まえて、より強固な日米同盟のために「解釈改憲」にまで踏み出したとみるべきだろう。だとすれば、信頼関係維持のために「アメリカから要件に該当しない武力の行使の要請があったとしても、断るのは当然」などと毅然と断るだろうか。

 日米同盟、日米安保の下に日本の安全、抑止力が維持されているので、これを維持・強化するためにも集団的自衛権を行使し、米国の要請に応えざるを得ないと、時の国会勢力図が現在のように自民多数だった場合、強行採決により承認することにはならないか。

 徴兵制についても同様だ。「徴兵制になって、若者が戦地に送られるって本当」との設問を設け「大きな間違いです。徴兵制は憲法で許されません。そもそも、近年は軍事技術の高度化によってプロしか扱えない装備がほとんどで、徴兵制を導入する意味は少なくなっています。日本を含めた先進7カ国で徴兵制の国はなく、その他の国も志願制に移行しつつあります」と説明しているのだが。

 徴兵制が憲法で許されないとしている根拠は、政府解釈で「徴兵は憲法18条で禁じた苦役にあたる」としているからに過ぎない。まさに政府が集団的自衛権の行使を容認できるとした解釈変更の閣議決定のように、国を守るのは国民の義務であり、徴兵は苦役に当たらないと解釈変更すれば、法を制定し可能になるのではないか。

 石破茂地方創生担当大臣らは「徴兵が苦役というのには違和感がある」としている点からも、解釈には変更の可能性が皆無とはいえない。そうした懸念を払拭するだけの担保が必要だ。

 政府が長年堅持してきた集団的自衛権への憲法解釈を、解釈の域を超え『解釈改憲』してしまったために、まさに「法的安定性を大きく揺るがす」結果を招いてしまった。その結果、「徴兵は憲法18条で禁じた苦役にあたる」との解釈についても、安定性が揺らいでしまった。皮肉にもチラシの内容を信用できなくしているのは安倍総理(総裁)自身だ。

 そして、今、国会で審議しているのは日本の進路を大きく変えることになりかねない重要法案であることは確か。そのことを踏まえ、ともに自身の問題として、あるいは子どもたちのために、安全保障や憲法、日米安保、アジア情勢と国会審議に目を向ける時間を増やされることを期待したい。(編集担当:森高龍二)