モバイル機器が、日本の技術によって、また大きく進化しそうだ。半導体大手のローム株式会社<6963>は、同社が業務提携を進める愛知製鋼株式会社<5482>のMI素子開発技術を用いて、業界最高精度と最小消費電流で方位を検出する新型地磁気センサ(MIセンサ)の開発に成功した。
モバイル機器、とくにスマートフォンやウェアラブル端末の普及により、センサ技術が注目を集めているが、中でも愛知製鋼が世界で初めて開発に成功したMIセンサは、従来のホール素子を使用した磁気センサなどと比較して、なんと1万倍以上の高感度を持つことで、IoT(モノのインターネット)やセンサネットワークを加速させる次世代技術として大いに期待されているものの一つだ。
今回、ロームが開発したMIセンサ「BM1422GMV」は、方位誤差±0.3度以下という業界最高精度を実現しただけでなく、消費電力を大幅に低減していることも大きな魅力だ。高感度であることは、高精度であるだけでなく、省電力にも貢献する。従来の地磁気センサの場合、精度を高めるためにはセンシングの回数を増やして平均値を出す必要があるが、MIセンサの場合は回数を減らしても高い精度を実現できるので、演算処理に要する電流を20分の1以下にまで低減できるというから驚きだ。
では、実際にどのような用途があるのだろう。活用が期待されている主な用途としてはインドアナビゲーションがある。方位を検出する地磁気センサにはこれまでホール素子が採用されていたが、精度面で大きな課題があった。また、ホール素子よりも精度の高いMR素子も登場したものの、消費電力が大きく、モバイル用途の利用という点で根本的な問題があった。しかし今回、MI素子を用いた新型地磁気センサが開発されたことにより、これらの課題が一気に克服されたことになる。
インドアナビ自体は、2011年頃から米グーグルがすでに「インドア Google マップ」を提供するなど、海外の有名施設をはじめ、日本国内でも多くの美術館や博物館でも導入されて話題にはなっていた。ところが上記のような課題が解決できなかったため、普及するまでには至っていなかったのが現状だ。しかし、今回のMIセンサの登場によって、インドアナビゲーションが再度注目を集めるのは間違いないだろう。GPSが届かない地下街の経路案内など、これまでの技術では難しかった新しいサービスへの展開も期待されているほか、AR(拡張現実)コンテンツなど、楽しい可能性も広がる。
近い将来、地下街やショッピングセンター、美術館や博物館などの屋内の施設から、館内案内の掲示板が無くなる日がくるかもしれない。(編集担当:石井絢子)