道徳教育が2018年度以降、小中学校で「教科化される」。中でも意見が分かれる「愛国心」の育成について、文部科学省は学校教育法施行規則改正に関する省令案などに関するパブコメの中で、ここにいう「国」の定義について「政府や内閣などの統治機構を意図するものではない」と答えた。
道徳の教科化が「偏狭なナショナリズムにつながる可能性がある」との懸念に答えたもの。
文部科学省は「ここでいう『国』とは、歴史的に形成されてきた国民、国土、伝統、文化などからなる歴史的・文化的共同体としての国を意味する」と説明した。
「愛国心教育」には、戦前、戦中、時の政権が教育勅語や皇民化教育、修身など、国家や天皇への忠誠心を高める手段につながり、共産主義者や反戦論者は憲兵(軍警察)に思想犯として非人道的弾圧を受けるなど、歴史的「過ち」を犯した経緯がある。このため愛国心という言葉自身にアレルギーを有する人さえいる。
統治機構に対する愛国心は国への「忠誠心」と言い換えられるが、文部科学省がいう「歴史的・文化的共同体」としての「国」を意味していると説明するなら「愛郷心」に言い換える方が正確だ。
ただ、安倍晋三総理が語る「愛国心」には、安倍総理の中に天皇崇拝がある。安倍総理は「天皇は国柄そのもの」と発言している。こうした面からも誤解をなくすために「愛国心」でなく「愛郷心」と明記すべきだろう。
また「道徳の教科化は国の考え方を子どもに植え付ける危険性が高い」との懸念に対して、文部科学省は「道徳教育の指導に当たっての留意事項として『多様な見方や考え方のできる事柄について、特定の見方や考え方に偏った指導を行うことのないようにすること』と明記する」と答えている。
また「児童(生徒)の発達段階や特性等を考慮し、指導のねらいに即して、問題解決的な学習、道徳的行為に関する体験的な学習等を適切に取り入れるなど、指導方法を工夫することと規定する」と説明している。
「子供たちが、答えが一つではない問題を道徳的課題として捉え、考えたり、議論したりする道徳へと質的転換を図る」ことをめざすと答えている。
また、道徳の評価の在り方について(1)数値による評価でなく、記述式であること(2)他の児童生徒との比較による相対評価ではなく、児童生徒がいかに成長したかを積極的に受け止め、励ます個人内評価として行うこと(3)他の児童生徒と比較して優劣を決めるような評価はなじまないことに留意する必要があること(4)個々の内容項目ごとではなく、大くくりな、まとまりを踏まえた評価を行うこと(5)発達障害等の児童生徒についての配慮すべき観点等を学校や教員間で共有すること、などといった基本的方向性を示し、それを前提に専門的検討を行っていくと説明していた。
道徳教育が一定の価値観を受け付けたり、政治的に利用されたり、あるいは時の政府に恣意的に利用されることは絶対にあってはならない。その危険を避ける担保策は必要だ。そのうえで、まさに「子どもたちの自ら考える視点を育てていく」教育環境こそ、大人たちが考えるべきことだ。(編集担当:森高龍二)