20日にモルガン・スタンレー、IBM、ハリバートン、21日にユナイテッド・テクノロジーズ、ベライゾン、マイクロソフト、VMウェア、アップル、トラベラーズ、ヤフー、インテューイティブ・サージカル、22日にボーイング、コカ・コーラ、クアルコム、テキサス・インスツルメンツ、サンディスク、アメリカン・エキスプレス、ニューモント・マイニング、23日にダウ・ケミカル、マクドナルド、パルトG、GM、アンダーアーマー、スターバックス、VISA、3M、キャタピラー、AT&T、フリーポート・マクモラン、アマゾンドットコム、クレディスイス、24日にバイオジェンが決算を発表する予定。
「カタルシス」という心理学の言葉がある。悩みや葛藤が発散されて心理的な問題がきれいに消える「精神の浄化」を意味するが、前週の東京市場は、まさにそれだった。
密集するレジスタンスラインを蹴散らしながら、5日間きれいに白星を連ねて日経平均は871円も上昇し、週間騰落のプラス幅は今年最大。ギリシャで下げ、上海で下げた2週分の下落幅合計926円の94%を取り戻すことができた。前週は「ギリシャと上海で負った深い傷のほとんどを癒すことができた週」と言ってもいいだろう。
カタルシスという言葉はもともと、古代ギリシャの哲学者アリストテレスがギリシャ悲劇について論じた『詩学』という本の一節に由来する。たとえばエウリピデスの『王女メディア』のような悲劇をみる観客は、舞台上の非現実の芝居に感情移入することで怖れとあわれみの心が呼び起こされる。「嫉妬に狂った女は怖いけど、なんだかかわいそう」というぐあい。それによって現実の世界の出来事で傷ついた観客の精神が浄化されることを、アリストテレスはカタルシスというギリシャ語で表現した。
偉大な哲人の約2300年後の後輩のギリシャは今月、同じく古代文明発祥の地で世界遺産の宝庫の中国とともに主要な金融マーケットをひっかき回し、世界の投資家に「現実の悪夢」をもたらした。しかし前週はそれに一応の区切りがついた。東京市場の関係者も投資家も日経平均の週間871円高によって、海の向こうからもたらされた2万円割れの悪夢からのカタルシスを果たすことができた。
もちろん前週の5連騰は非現実のまぼろしではない。ウクライナがそうだったように、時間がたてばギリシャや上海の出来事は忘れていくのだろうが、はたしてこれで「心の平安」を取り戻すことはできたのだろうか?
まず、需給をみていこう。大荒れの前々週のデータになるが、需給状況を東証が16日に発表した7月第2週(6~10日)の投資主体別株式売買動向を確認すると外国人は2週連続の売り越しで、その額は4382億円でかなり大幅だった。一方、個人は2週連続の買い越しで、その額は5271億円でこれも巨額。そのうち現金が3071億円もあった。海外投資家の大量売りに個人投資家が大量買い、それも現金での押し目買いで立ち向かった、という構図だった。
現金買いは信用取引のような反対売買による決済が起こらないので、信用買い残がふくらんで後で需給を悪化させる恐れがなく、需給全体の基盤を突き固めてくれるありがたい存在。それは、株価の上昇に伴って信用買い残が東京市場の10倍以上の約44兆円まで異常に膨脹していった上海市場とはまさに対照的である。もし、強権を振りかざした中国政府の株価下落防止策がなかったら、上海市場は50%を超えるような下落も十分にありえた。これは事実上の「カタストロフ(大破局)」で、暴落直前の信用買い残の異常な積み上がりは、上海版の「ヒンデンブルグ・オーメン(大暴落の兆候)」だった。
東京市場はその上海のカタストロフのとばっちりを受けたが、今週は個人の現金買いが入って強化された需給基盤が底堅い値動きを演出して好影響をもたらしてくれるだろう。「雨降って地固まる」で、日経平均の2万円割れという事態はますます起こりにくくなったとみていい。これで心は安まるだろうか?