「食べる」という行為は、あらゆる動物の生命維持に欠かせない行動の一つだ。しかし、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害による麻痺や神経・筋疾患、さらには、そんな疾患はなくても身体の衰弱や加齢による筋力の低下などが原因となって、「食べる」ことがままならなくなることがある。それが摂食嚥下障害という症状だ。
栄養補給や食べる楽しみという面だけでなく、嚥下反射の低下は肺炎のリスクを高めるという意味でも非常に深刻な問題となっている。肺炎は高齢者の死亡原因の第3位に挙げられているが、その70パーセントが食べ物などが食道でなく気管に入ってしまう「誤嚥」に関係する誤嚥性肺炎といわれている。
嚥下障害の症状を持つ人は通常、医師によるリハビリ治療と並行して、とろみ調整食品、ゲル化剤、デザートベース食品、水分補給ゼリーなどの嚥下食、または、きざみ食やブレンダー食などの咀嚼困難者食を摂取する。しかし、患者の中にはできるだけ通常食を美味しく食べたいと望む声が多い。
そんな中、ローヤルゼリーなどのミツバチ産品の製造と販売で知られる株式会社山田養蜂場が大変興味深い研究結果報告を発表している。同社は、唐辛子由来の辛み成分で嚥下反射を起こしやすくする作用が報告されているカプサイシンを配合したフィルム型サプリメント「カプフィルムR」を開発しているが、この度、同社が支援する岡山大学病院スペシャルニーズ歯科センターの村田尚道助教、後藤拓朗氏らによる臨床研究によって、同商品の飲用による、嚥下反射機能の促進が明らかになったという。また、この成果は学術誌「日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌」にも掲載された。
今回の試験では、20~40歳の成人男性17名を対象にプラセボ対照クロスオーバー二重盲検法で検討されたもので、その結果「カプフィルム(R)」の飲用20~40分後で、嚥下反射が有意に促進されることがわかった。
同商品は食事前に口の中に入れてゆっくりと溶かすだけなので、嚥下障害を持つ人でも問題なく使うことが出来る。改善や治療ではなく、あくまで食べるチカラをサポートしてくれるに過ぎないが、口の中で溶かすだけで嚥下機能を促すことができれば、健康長寿につながるだけでなく、食べる楽しみを再び味わうことが出来る。それは患者にとっては何よりも嬉しいことなのではないだろうか。超高齢化社会を迎える日本が、これからも元気な国であり続けるためにも、このような研究は積極的に進めてもらいたいものだ。(編集担当:藤原伊織)