最新の自動車技術開発は、どこで生まれるのか分からない。そのためのファンド設立──トヨタ自動車

2015年08月08日 19:24

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トヨタ自動車は広範囲の技術開発を狙って、三井住友銀行、スパークス・グループと共同で次世代技術開発のベンチャー企業を支援する投資ファンドを設立する

 政府が取りまとめる自動車自動運転分野における産学官連携組織に、今秋をめどに部品業界が本格的に参画するようだ。これまで民間からは完成車メーカーから構成員が出ていたが、サプライチェーンが構成員を出すのは初めて。今後、日本自動車部品工業会からも参加し、日本の自動運転システムの国際競争力を底上げしたい考えが反映された。

 参加するのは2014年に始まった戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の自動走行分野。ここの情報は日本自動車部品工業会で共有するため、約400社以上の部品メーカーがシステム開発を下支えすることになる。なかでも障害物や人、信号、標識などさまざまな物を察知するセンシング分野や通信分野においては従来のメガサプライヤーだけでは対応できない。

 SIPの研究テーマは経済産業省や国土交通省、総務省、警察庁といった関連省庁の施策と連動して進められている。総務省が担当する「自動走行システムに必要なクルマ間通信・路車間通信技術の開発」はデンソーやパナソニック、パイオニア、電気通信大学が実施している。

 一方で、ハイブリッド車(HV)以降の自動車業界は電気自動車(EV)、そして燃料電池車(FCV)などの開発で、これまでの系列メガサプライヤー以外の「電気(バッテリーなど)」「化学(水素製造供給技術)」分野との協働が増加。また、車両軽量化や剛性アップなどで「炭素繊維(ボディ・シャシー素材)」「接着剤(溶接に変わる接合技術)」などとの協働開発が増えた。

 こうした他分野との協働・提携を踏まえてトヨタ自動車は先月、三井住友銀行、独立系運用会社のスパークス・グループと共同で次世代技術開発のベンチャー企業を支援する投資ファンドを設立すると発表した。設立時期は今秋を予定。ファンドの規模は今後3社で検討する。自動運転につながる知能化技術のほか、ロボット技術や水素エネルギー開発に関連したベンチャー企業が投資対象となる。

 今秋にも数100億円規模のファンドを立ち上げ、人工知能(AI)などの成長分野に資金を供給する。IT分野を中心に企業のベンチャー投資が増えており、同ファンドの趣旨に賛同する一般企業から出資を募る。トヨタの参画により資金出資者(社)の多様化が進みそうだ。

 同ファンドへの一般企業から出資は、1件あたり投資規模として数100万~3億円を見込んでおり、未来社会が要求する技術開発を手掛ける企業やプロジェクトに機動的に資金を投入。イノベーションの促進と次世代社会の実現を目指すという。具体的には、AI(知能化技術)やロボティクス、トヨタが推し進めているFCV(燃料電池車)を核とした水素関連技術へ投資し、スパークスがファンドの運用を担当する。

 トヨタは2016年3月期に1兆500億円の研究開発費を投じる。自動車先端技術の最先端であるAIを活用した自動運転や水素関連などに力を入れている。

 が、「従来の自動車関連サプライヤーなどの延長分野以外の新技術が必要で、まったく自動車と関連がなかった産業分野から新しいテクノロジーが誕生する可能性が高まっている」とトヨタは判断。運用会社などの力を借りて有機的に資金提供し、より幅広い分野の技術開発力を活用していく構えだ。

 同ファンドの設立により、トヨタは新技術や市場動向などの広範な情報をタイムリーに入手し、事業戦略に活用する。同時に、革新技術を持った個人や企業の成長・事業化を支援することで新たな価値の普及に貢献するとした。三井住友銀行は、次世代技術の育成という社会的意義の高いファンドを通じて、経済成長の牽引役となり、将来の有望企業の発掘と育成に努めるという。また、スパークスは、次世代の成長に資する投資を長期的な視点から実践し、投資会社として未来を創造する新たな領域を開拓するとしている。

 大企業がファンドを通じて新興企業に出資する動きは世界的に拡大している。インテルやグーグルなどの米IT企業が先行し、自動車メーカーでは米ゼネラル・モーターズ(GM)がベンチャーキャピタルを設立した。(編集担当:吉田恒)