サントリー・ホールディングス(HD)は、先月(7月28日)に「早ければ2018年にも株式を上場する検討に入った」との日本経済新聞社などの報道について、「当社が上場について検討に入った事実はない」と明らかにした。
同月28日付の日本経済新聞は、サントリーが上場で調達した資金で昨年の米蒸留酒大手ビームの買収で膨らんだ有利子負債を圧縮し、新たな成長に向けた経営資源を確保する方針だと報じた。また、上場先は東京証券取引所とは限定せず、米ニューヨーク証券取引所(NYSE)をも候補としていると伝えた。
この「サントリーHD上場検討」との報道に、酒類業界は色めき立った。が、対照的に金融関係者らの反応は驚くほど冷静だったとも別の報道は伝える。サントリーホールHDの経営陣に対して、「株式上場は幾度となく提案してきた」こと。すでに“本体上場”は既定路線だというのだ。
これまで、複数の金融機関がサントリーHDに本体上場を勧めてきた。が、「経営の自由度を奪われることを恐れた創業家が、どうしても首を縦に振らなかった」ため、上場対象が子会社のサントリー食品インターナショナル(SBF)だけという現状となった。
なぜ今になって、再び本体上場の選択肢が浮上したのか? 日本経済新聞によれば、その最大の理由は、昨年の米ビーム社買収による有利子負債の増加にある。1兆6000億円もの買収資金を投じたことで、2014年12月期の有利子負債は1兆8000億円にまで膨らんだ。財務体質の悪化が響き、ムーディーズ・ジャパンによる格付けも2段階引き下げられた。
こうした財務体質の改善が急務となったことに加えて、新たなM&Aなどへの成長資金を確保するためにも、HDの上場が現実味を帯びてきた。
米ビーム社買収後の昨年、サントリーHDは、スポーツクラブ「ティップネス」を日本テレビに売却。この8月末に仏コニャック製造会社のルイ・ロワイエの売却を決めるなど本業以外の周辺産業と売れる企業を売却し、集中と借金返済に熱心だ。
サントリーHDの株式構造は複雑だ。同社約9割の株式は寿不動産が保有し、その寿不動産の株式の約63%を創業家が保有している。
今回の日本経済新聞の「サントリーHD、株式上場」報道は、本体上場を契機にして、創業家が持つ寿不動産の一部株式の売却を進め、創業家による複雑な株式構造を見直すということ。
株式公開による資金調達の要請からすれば、本体上場は合理的な選択肢ではある。だが一方で、上場ともなれば、株式市場やステークホルダーからの厳しい視線に晒される。創業社長の鳥居信次郎氏が喧伝した「やってみなはれ」精神に代表される自由闊達な企業文化は、非上場企業だからこそ育まれてきた。
創業家体制の非上場体質から脱し、真のグローバル企業となれるか。経営陣の覚悟が問われる。上場先は東京証券取引所なのか米ニューヨーク証券取引所(NYSE)なのか分からないが、本体のサントリーHDはともかく、スピリッツ事業の「ビーム・サントリー」はNYSEで上場も十分あり得る。(編集担当:吉田恒)