ただ、海外要因に翻弄された前週に代わって、今週は国内要因に注意しなければならない。17日朝には4~6月期のGDP速報値が発表され、19日には7月の貿易収支と訪日外国人客数が発表される。いずれもその数値が株価に影響を与える可能性を秘めている。とはいえ、GDPがマイナスになるのは以前から予想され、ある程度は織り込み済みかもしれない。日本を訪れた中国人による「爆買い」も決して衰えてはいないという現場の声も聞く。資源安で貿易赤字は縮小している。多少反転しても日経平均を100円、200円押し下げるような要因になるとは思えない。
さらに今週は、マーケットにとって良いニュースがもたらされる可能性がある。それは「政策」。15日の終戦記念日で「戦後70年」の一連のイベントに区切りがつき、安倍内閣は経済政策に比重をかけられるようになる。今年は3年ごとの参議院選挙の前年なので、与党の地方組織あたりは低下した内閣支持率、17日のGDPのマイナスの数字を振りかざして、「執行部は景気対策をとらずに来年の選挙を乗り切るつもりなのか?」などと有形無形のプレッシャーをかけてくるだろう。日本経済はアベノミクス以前の民主党政権時代と比べたら景況感も雇用状況も格段に改善しているのだが、それでも議席のために、票のために新たな景気対策を欲しがるのが政治というもの。政治とは、分配である。
具体的に言えば、補正予算で公共事業費を増額して景気対策を打つという流れで、効果がわかりにくい成長戦略や地方創生や子育て支援よりも、ダイレクトに関連業界に〃恩を売って票を買える〃政策が欲しいのだ。安倍内閣がそのプレッシャーに対し「ガス抜き」で景気対策を小出しにしはじめたら、恩恵を受けるゼネコンや専門工事業、建設資材メーカーあたりは株価が上がる。そんな政策効果は企業業績と同様に、株価指数に底堅さをもたらす国内要因として効いてくる。「秋の相場は政策次第」というなら、17日発表のGDPはその出発点になる意味を帯びている。
そのように、今週は海の向こうで大きな波風が起こらなければ、株価を動かす要因は海外から国内にシフトしそうな週になりそうだが、需給面で相場に大きな影響をもたらしそうな指標として「カラ売り比率」を挙げておきたい。前週12日、このカラ売り比率が過去最高を更新しているからである。
東証が毎日発表するカラ売り比率は前週、10日は35.0%、11日は34.2%、12日は39.2%、13日は35.6%、14日は38.1%と推移した。過去最高を更新した12日、日経平均は2回目の人民元切り下げを受けて20303円の週間の最安値をつけている。この時点で個人投資家によるカラ売りが大きく盛り上がったと考えられる。週末の14日にも旺盛なカラ売りが入っており、12日以前の過去最高値、今年6月18日の38.3%まであと0.2ポイントまで迫るような高水準だった。
カラ売り比率がハイレベルだと、その後はどうなるのか? 前回の過去最高6月18日は「破竹の12連騰」が6月1日に途切れた後の調整局面で、ほぼ安値引けで終値が2万円を10円下回った日だった。驚くことにそのわずか4営業日後の6月24日には、日経平均は20952円まで上がりザラ場ベースの年初来高値を更新している。カラ売りの買い戻しによって、4日で962円高、率にして4.8%というハイペースの上昇をみせたのだ。
6月と条件は同じではないのだが、「高いカラ売り比率は急反発の兆候」とみて12日の安値20303円に4営業日後、同じ上昇率4.8%を当てはめると、なんと今週は21277円まで上昇するという計算結果になる。多少割り引いても、今週の21000円チャレンジ成功は有望ということは言えそうだ。
それを前提に14日の日経平均終値20519.45円のテクニカル・ポジションを確認しておくと、5日移動平均の20607円は上にあるが、25日移動平均の20513円はすぐ下で、75日移動平均は20297円。日足一目均衡表の「雲」は変化日のサイン「ねじれ」を起こしたばかりで、19946~20033円で上限は486円も下になった。しかも幅は87円と非常に薄くなっている。今週は上限は20033円で一定し、下限は19935~19948円で雲の幅は100円未満と薄いまま。2回目の「雲のねじれ」は来週24日にくる。ボリンジャーバンドは、25日線-1σの20289円と+1σの20736円の間のニュートラル・ゾーンで、上にも下にも動きやすい位置。+2σは20960円で節目の21000円のすぐ下にある。
オシレーター系指標は「買われすぎ」「売られすぎ」シグナルは点灯せず、25日移動平均乖離率+0.03%に象徴されるように、まさにニュートラル。騰落レシオは116.31でやや高めだが、ストキャスティクス(9日・Fast/%D)は31.0で低位。RSI(相対力指数)は56.1、RCI(順位相関指数)は+2.8、サイコロジカルラインは7勝5敗で58.3、ボリュームレシオは51.8となっている。
総じて言えば、21000円チャレンジを阻むような要素は少ない。14日朝に出たばかりの8月のSQ値20540円は最初から「まぼろし」ではなく、14日のザラ場でスイスイ抜いていた。5日移動平均20607円もレジスタンスラインとしては弱く、あえて言えばボリンジャーバンドの+1σの20736円か。それも6月25日以来抜けていない+2σの20960円に比べれば抵抗力は小さい。日足一目均衡表の変化日(雲のねじれ)の直後でもあり、テクニカル的にみて今週の21000円タッチは十分可能とみる。ついでに言えば14日は「新月」だった。〃マーケット天文主義者〃に宗旨替えしたわけではないのだが……。
一方、下限のほうでテクニカル的にみてサポートラインになりそうなのは、「雲」は地上に落ちた気球のようにねじれて急に凹んでしまったので、25日移動平均の20513円と6月のメジャーSQ値20473円。間をとって20500円を今週の終値ベースの下限とみる。8月のSQ値20540円もサポートライン候補生として忘れてはいけない。「人民元ショック」で乱高下した前週だが、12日、13日は75日移動平均が、14日は25日移動平均が下値の防衛線として機能し、ボロボロにされたようでも「漂えど沈まず」だった。今週もよほどの〃凶事〃がない限り、25日線は頼れるサポートラインになってくれるだろう。
ということで、過去最高のカラ売り比率とその買い戻しを背景に気分を出してもう一度、21000円にチャレンジしてそれに成功するシナリオを思い描き、今週の日経平均終値の変動レンジは20500~21000円とみる。
前週、世界のマーケットをかき乱した中国の人民元切り下げは、3日連続で規模が大きく、しかも突然だった。これが「パラダイム・シフト」の始まりなのかどうかは時間が経過しないとわからないが、舞台裏では変化は以前から徐々に、静かに進行していたはず。投資家が心得ておくべきなのは、変化はある日突然、まるで火山の噴火のように表に飛び出し、ショックをもたらすということ。「わたしは年老いた。突然、それを知る」(マルグリット・デュラス『愛人』清水徹訳)(編集担当:寺尾淳)