【今週の展望】「2万円再チャレンジ」の条件は整ったのか?

2015年08月30日 20:37

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怖いのは「いつも通りの平穏な日々」に安心してしまい、今の株価水準が危機後の「ニューオーダー(新秩序)」として定着してしまうこと。

 アメリカ主要企業の決算は9月1日にダラー・ツリーが発表する予定。

 世界各国の株式マーケットは前週、中国が震源の「世界同時株安」のトンネルを抜けた。しかし、その爪あとはあまりにも深すぎて、株価が多少回復しても以前の水準を取り戻すまでの道のりは長く、その距離の遠さに無力感すら感じてしまう。たとえて言えば、大切に育ててきた森林が大きな山火事でことごとく焼き払われた後、ようやく黒こげの地面にうっすら草が生えてきたような状況で、森がよみがえるまでに相当な時間がかかることを思い知らされる。

 日経平均の26日の安値は17714円だった。5月以来2万円の大台をほぼキープしていたのが、19日ザラ場の20521円の高値からたった1週間で2807円も下げたのは、2年前の「5.23」の大暴落にも匹敵するような衝撃だった。あの時は需給バランスが崩れたまま日経平均は低迷からなかなか脱することができず、東京市場はまるで「トラウマ(精神的外傷)」を負ったような状態がほぼ半年間続いていた。

 とはいえ、小惑星が地球に激突する天変地異で恐竜が全滅したことで、ほ乳類が繁栄して人類が地球に君臨する道が開けたように、こんな降ってわいたような忌まわしい出来事にもそれなりの意義と効用がある。教訓の第一は多くの投資家が、カタストロフ(大破局)の前ではリスクマネジメントはもはや無力だと認識させられた、ということではないだろうか。これは「科学哲学」を専門とするスタンフォード大学のジャン=ピエール・デュピュイ教授が原子力災害について唱えていることだが、金融マーケットにも当てはまることが今回、はからずも実証されてしまったように思える。

 幸い、カタストロフには至っていないが、その黒い淵はのぞいた。そこはまるでブラックホールのように、ファンダメンタルズ分析、テクニカル分析、行動ファイナンスなどで従来から知られている理論や法則性や経験則では理解できないようなことが、山のように起きていた。「リスクは必ず管理できる」と信じて臨んでも、思い通りにならない。それを「中国は、わからないことだらけだ」と嘆くだけで済ませては、何の教訓にもならない。

 改めて真摯に、そして謙虚に「人間はリスクを完全には管理できない」という認識から再出発しなければならない。それには、それなりの「覚悟」が必要で、時には「苦渋の選択」を迫られることもある。それがわかった投資家が増えただけでも、真夏のマーケット大混乱には収穫があったと言えるだろう。

 日本列島には四季があり、季節はうつろう。夏には必ず終わりがあり、日差しは日々、柔らかくなり、涼しい秋風がかげろうを連れてくる。今週、9月になればマーケットにもまた別の風が吹くことに期待しながら28日の日経平均終値19136.32円のテクニカル・ポジションを確認すると、移動平均は200日線(19042円)、5日線(18486円)が下、25日線(20060円)、75日線(20256円)が上にある。8月前半までは上から5日線、25日線、75日線、200日線というきれいな「層序」を描いていたが、今はグチャグチャに乱れている。これが世界同時株安、マーケット大混乱の破壊力のすさまじさ。だが歴史上、奇跡のような出来事はこんな混乱の中で起きた。

 ボリンジャーバンドは前週、確率が0.15%しかない25日線-3σを割り続けるという〃奇跡〃を成し遂げたが、28日終値は-2σの18356円と-1σの19208円の間にあり、あと72円上昇すれば-1σを超えてニュートラルなゾーンに戻れる位置まで回復した。

 日足一目均衡表の「雲」は20033~20207円で、今週の雲は下限は20033円に固定され、上限は20247円から週末4日に20225円に下がるだけで、ほとんど変化がない。雲は心理的節目の2万円、25日移動平均の20060円とともに、800円以上離れた上空に「たどり着きたい目標ライン」を示している。それは言い換えれば「強力なレジスタンスライン群」でもあるが、今週は25日線が2万円を割って下がってくるものの、その下には抵抗帯になりそうなものが見当たらないので、スムーズに上値追いできる環境が整っている。

 では、オシレーター系指標のほうはどうか。28日終値時点で25日移動平均乖離率は-4.8%、騰落レシオは86.6、RSI(相対力指数)は33.1、RCI(順位相関指数)は-84.6、ストキャスティクス(9日・Fast/%D)が33.2、サイコロジカルラインは5勝7敗で41.7%、ボリュームレシオは35.3である。このうち明らかな「売られすぎ」は-50を割り込んだRCIだけだが、25日線乖離率が-5%に近いなど、売られすぎラインに接近した数値を示す指標が目立つ。これも上値追いにとっては好環境と言えるだろう。

 テクニカル指標の上では「2万円再チャレンジ」の条件はすでに整っている。今週の国内外の経済指標、イベントを眺めても、上値追いに冷たい水をかけそうなものはあまりない。もし8月31日朝方の日本の鉱工業生産指数速報値や9月1日の中国の製造業PMIの数値が悪化して日経平均が19000円付近まで凹まされたとしても、挽回する時間はたっぷりある。週末のアメリカ雇用統計を前にして様子見ムードが出そうだが、同じく週末のG20への期待も出るだろう。ギリシャ問題はマーケットではすでに「過去」なので3日のECB理事会は心配なし。残る懸念はやはり今週も上海市場になるが、27日の中国人民銀行による1400億元の流動性供給はさすがに効いたらしく、上海市場では突然の急落が影をひそめた。今週も「眠れる獅子」を続けてくれれば日経平均の2万円タッチは現実味を帯びてくるだろう。

 当たり前の話だが、マーケット環境が良くても買う人がいなければ株価は上がらない。28日終値時点で日経平均採用225種の平均PER(株価収益率)は15.23倍、平均PBR(株価純資産倍率)は1.31倍で、8月のピーク(10日の16.64倍、1.43倍)に比べれば大きく低下し「押し目買いのチャンス」は続いている。それでも前週は上昇するたびに利益確定売りが入って上値が抑えられ、投資家はまだまだ疑心暗鬼で、積極的に買いにいけないムードが漂っていることを感じさせた。

 そう、日経平均2万円再チャレンジの行方を左右する最大のポイントは、つまるところ東京市場の投資家のマインドである。怖いのは「いつも通りの平穏な日々」に戻ったことで安心してしまい、25日線いまだ遠い19000円そこそこの株価水準が、8月危機後の「ニューオーダー(新秩序)」として定着してしまうこと。いわばパラダイム・シフトの小型版である。そうならないためには、政策でも要人発言でもIPOでも何でもいいから、良い刺激が欲しいところだ。

 ということで、今週の日経平均終値の変動レンジは19000~20000円とみる。

 マーケットとは、海のようなもの。悠久の営みのように潮は満ちて、潮は引き、尽きることなく波は寄せ、波は返してゆく。夢でいざない、悪夢でさいなみ、時に恵みを、時に禍いを、時に歓びを、時に哀しみを人にもたらす。その前では、人はあまりにも小さすぎ、人の命はあまりにも短すぎる。「私は大声をだし訴へようとし/波はあとから消してしまふ/私は海へ捨てられた」(左川ちか『海の天使』)
(編集担当:寺尾淳)