慶應義塾大学理工学部の榊原康文教授と医学部の研究グループは、静岡大学情報学部の狩野研究室などと共同で、医師国家試験を一部自動解答する人工知能プログラムを日本で初めて開発した。
医師国家試験問題は、問題文として患者の情報や検査結果が与えられ、複数の選択肢の中から適切な回答を選択する臨床実地問題形式のものが大半を占めている。今回は、このタイプの問題を解答するプログラムの開発を目指したという。医師国家試験を解答することのできる人工知能を開発することによって、医療ビッグデータ情報処理における課題とその対処法について考察し、最終的には様々な患者情報を適切に解析し、必要な診療支援を行うための基礎を築くことを目的としている。
第107回(平成25年度)・第108回(平成26年度)の医師国家試験問題のうち、臨床実地問題の27題について解答を行った。その結果、開発したプログラムの正答率は 42.6%となり、ランダムに解答して得られる正答率19.6%とくらべて優位に高い正答率を記録した。医師国家試験の合格判定基準は約60%程度と言われており、正解を導くための教師データを大量に準備することができれば、2~3年以内に医師国家試験に合格できる解答機の完成が可能と同研究グループでは考えている。
また、近年、医療・健康情報の電子化に伴い、患者の個人情報を匿名化することで医療・健康情報をビッグデータ化し、それらを解析することで有用な医学情報が得られると考えられている。しかし、今後たとえ医療・健康情報のビッグデータ化が可能になったとしても、それを解析する手段がほとんどないのが現状だ。医療情報ビッグデータを解析する手段の一つとして、近年開発が盛んに進められている人工知能に非常に注目が集まっている。今回の解答プログラムの成果は、今後これらの分野の発展に貢献するものと期待されるという。
医師国家試験以外の医療関係国家試験としては、歯科医師、薬剤師、看護師、助産師、放射線技師、診療検査技師等の国家試験があるが、これらの医療関係国家試験の中でも、医師国家試験は問題の難易度、解答に要求される知識量などから最難関試験の一つと考えられている。今後、本格的に医師国家試験の解答を行う人工知能の開発が可能になれば、他の医療関係資格試験の解答機の開発へも応用可能だという。
さらに、医師国家試験より難易度の高い各科専門医試験は、解答に要する知識量が多いが、医師国家試験に比べ範囲が限定されるため、教師データを十分準備して機械学習手法を応用することで、専門医試験の自動解答機の構築も可能になると期待されるとしている。(編集担当:慶尾六郎)