食品の物流では一般的に、食品メーカー(製)、卸売事業者(配)、小売事業者(販)の各社がそれぞれ独自に、気象情報や各社が持つPOS(販売時点情報管理)データなどに基づいて需要予測を行っている。しかし、製・配・販各社が需要予測で用いるデータは十分に共有されておらず、各流通段階にて生産量や注文量にミスマッチ(予測の誤差)が発生するため、廃棄や返品などの無駄が生じる一因となっている。
そこで、一般財団法人日本気象協会は、天気予報を物流に応用した「需要予測の精度向上・共有化による省エネ物流プロジェクト」を実施している。気象情報に加えてPOSデータなどのビッグデータも解析し、高度な需要予測を行ったうえで製・配・販の各社に提供。気象情報には、「アンサンブル(集団)予測」を用いた長期予測なども活用し、需要予測の精度をさらに向上させる。これにより、食品の廃棄や返品などを減少させ、二酸化炭素ロスの5%削減を目指している。
製・配・販を気象情報でつなぎ、協業して無駄を削減する事業は、国内で初めての試み。事業初年度である2014年度の成果を用いて、参加企業の商品「冷やし中華つゆ」を事例に生産量を調整したところ、8月末時点で2割弱の在庫圧縮が確認できたという。そして、15年度は、事業に参加する民間企業が初年度から13社増え、22社となった。また「人工知能」の研究機関の協力なども得て、幅広い品目でさらなる需要予測の精度向上に取り組むことで、廃棄や返品に伴って不要に発生している二酸化炭素の5%削減を目指す。
前回は、Mizkanの販売する「冷やし中華つゆ」と、相模屋食料の「豆腐」について、各種データ(売上、発注量、廃棄量、気象)の解析と、需要予測・解析を行った。「冷やし中華つゆ」は、賞味期限は長いものの特定の季節に需要が集中する「季節商品」の代表として、「豆腐」は冷蔵を要し、あまり日持ちのしない「日配品」の代表として選択した。
その結果、データ解析ベースでは、高度な気象情報による需要予測に基づいて生産量を調整した場合、最終的な生産実績に対して二酸化炭素ロスを「冷やし中華つゆ」では約40%、「豆腐」では約30%削減できることを確認した。また、「冷やし中華つゆ」について、こうした成果を用いて今夏の最終生産量を調整したところ、昨夏と比較して8月末時点で2割弱の在庫が圧縮できたことを確認した。
また前回は、対象地域を関東に、対象品目を天候や季節による需要の変動が大きい「豆腐」と「冷やし中華つゆ・鍋つゆ」の3品目に限定していた。今回は対象地域を全国に拡大、対象商品もネスレ日本のコーヒーやポッカサッポロフード&ビバレッジの炭酸飲料など、天候や季節による変動が大きい数十商品に拡大する。そして小売事業者と連携して無駄の削減に取り組む。また、POSデータ解析には今年度から、ローソンやバローホールディングス、カメガヤのデータを用いる。
このPOSデータ解析では、国立研究開発法人産業技術総合研究所「人工知能研究センター」などの研究機関も参加し、人工知能技術を用いて顧客行動分析など汎用性のある解析を実施。また、小売店のPOSデータだけでなく、ツイッターなど消費者の発信するSNSの情報を用いて体感温度なども解析し、需要予測への反映を目指す。(編集担当:慶尾六郎)