「天気予報が物流を変える」 日本気象協会の人工知能を活用などした天気予報と物流を融合したプロジェクト

2015年10月30日 08:32

 食品の物流では一般的に、食品メーカー(製)、卸売事業者(配)、小売事業者(販)の各社がそれぞれ独自に、気象情報や各社が持つPOS(販売時点情報管理)データなどに基づいて需要予測を行っている。しかし、製・配・販各社が需要予測で用いるデータは十分に共有されておらず、各流通段階にて生産量や注文量にミスマッチ(予測の誤差)が発生するため、廃棄や返品などの無駄が生じる一因となっている。

 そこで、一般財団法人日本気象協会は、天気予報を物流に応用した「需要予測の精度向上・共有化による省エネ物流プロジェクト」を実施している。気象情報に加えてPOSデータなどのビッグデータも解析し、高度な需要予測を行ったうえで製・配・販の各社に提供。気象情報には、「アンサンブル(集団)予測」を用いた長期予測なども活用し、需要予測の精度をさらに向上させる。これにより、食品の廃棄や返品などを減少させ、二酸化炭素ロスの5%削減を目指している。

 製・配・販を気象情報でつなぎ、協業して無駄を削減する事業は、国内で初めての試み。事業初年度である2014年度の成果を用いて、参加企業の商品「冷やし中華つゆ」を事例に生産量を調整したところ、8月末時点で2割弱の在庫圧縮が確認できたという。そして、15年度は、事業に参加する民間企業が初年度から13社増え、22社となった。また「人工知能」の研究機関の協力なども得て、幅広い品目でさらなる需要予測の精度向上に取り組むことで、廃棄や返品に伴って不要に発生している二酸化炭素の5%削減を目指す。

 前回は、Mizkanの販売する「冷やし中華つゆ」と、相模屋食料の「豆腐」について、各種データ(売上、発注量、廃棄量、気象)の解析と、需要予測・解析を行った。「冷やし中華つゆ」は、賞味期限は長いものの特定の季節に需要が集中する「季節商品」の代表として、「豆腐」は冷蔵を要し、あまり日持ちのしない「日配品」の代表として選択した。

 その結果、データ解析ベースでは、高度な気象情報による需要予測に基づいて生産量を調整した場合、最終的な生産実績に対して二酸化炭素ロスを「冷やし中華つゆ」では約40%、「豆腐」では約30%削減できることを確認した。また、「冷やし中華つゆ」について、こうした成果を用いて今夏の最終生産量を調整したところ、昨夏と比較して8月末時点で2割弱の在庫が圧縮できたことを確認した。

 また前回は、対象地域を関東に、対象品目を天候や季節による需要の変動が大きい「豆腐」と「冷やし中華つゆ・鍋つゆ」の3品目に限定していた。今回は対象地域を全国に拡大、対象商品もネスレ日本のコーヒーやポッカサッポロフード&ビバレッジの炭酸飲料など、天候や季節による変動が大きい数十商品に拡大する。そして小売事業者と連携して無駄の削減に取り組む。また、POSデータ解析には今年度から、ローソンやバローホールディングス、カメガヤのデータを用いる。

 このPOSデータ解析では、国立研究開発法人産業技術総合研究所「人工知能研究センター」などの研究機関も参加し、人工知能技術を用いて顧客行動分析など汎用性のある解析を実施。また、小売店のPOSデータだけでなく、ツイッターなど消費者の発信するSNSの情報を用いて体感温度なども解析し、需要予測への反映を目指す。(編集担当:慶尾六郎)