【自動車業界の4~9月期決算】北米市場で売れたメーカーはドル高円安という「過給機」もついて通期業績上方修正

2015年11月06日 07:34

 11月5日、トヨタ、マツダ、富士重工を最後に自動車業界大手8社の4~9月期決算が出揃った。国内販売は消費増税後の低迷からなかなか浮上できず、それに加えて4月の軽自動車税の増税の影響をもろに受けたダイハツは長いトンネルの出口が見えずに通期業績下方修正。それと対照的に、北米市場で売れ行き快調の富士重工、日産、マツダは、為替のドル高円安の進行という「業績の過給機」もついて通期業績上方修正。インド市場で好調なスズキも上方修正したが、ホンダは売上だけを上方修正、三菱は業績見通し修正なしで、トヨタは4~6月期決算発表時にいったん上方修正した売上高の通期見通しを元に戻し、世界販売台数を下方修正した。

 「主に海外のどこで売っているか」で明暗が大きく分かれる最近の傾向は、4~9月期決算でよりはっきりと現れている。日本国内、中国、東南アジアの新興国での販売比率が大きいメーカーは、北米市場で稼ぐメーカーとの業績の差がますます開いていきそうだ。

 ■北米はガソリン安で燃費が悪い車種も売れる

 4~9月期の実績は、トヨタ<7203>は売上高8.9%増、営業利益17.1%増、税引前四半期純利益11.0%増、最終四半期純利益11.6%増の増収、2ケタ増益。中間配当は前期比25円増の100円とした。北米市場ではガソリン安を反映して利益率が高いピックアップトラックや「レクサス」の販売が好調。為替の円安に伴い円建ての収益改善効果が出て利益を押し上げた。その一方で日本国内や東南アジアでは販売台数が伸び悩んだ。

 日産<7201>は売上高15.3%増、営業利益50.8%増、経常利益30.3%増、四半期純利益37.4%増の2ケタ増収増益。中間配当は前年同期比4.5円増の21円とした。期中のグローバル累計販売台数は前年同期比1.3%増の262万台。国内販売は鈍化したが、北米ではセダン「アルティマ」、利益率が高いSUV「ローグ」などが好調。ヨーロッパでは「エクストレイル」「キャシュカイ」などの需要が拡大した。中国では1~9月の乗用車販売台数が9.5%増の72.2万台に達した。「リーフ」など電気自動車(EV)のグローバル累計販売台数は20 万台を達成した。カルロス・ゴーン社長兼CEOは「北米での好調な販売と西欧の回復が他の地域の不安定な市場状況を相殺し、堅実に売上げを伸ばし利益を生み出した」と述べている。

 ホンダ<7267>は売上収益15.6%増、営業利益7.9%増、税引前利益13.6%増、四半期利益15.7%増、最終四半期純利益14.0%増の2ケタ増収増益。売上収益は当初見込みから1000億円上方修正していた。年4回配当の第2四半期末配当は前年同期と同じ22円とした。ホンダグループの販売台数は、国内は前年同期比で16.7%減り、ヨーロッパも9.8%減ったが、四輪車世界販売台数の42%を占める北米の販売台数は9.9%増で、アジアの販売台数は22.9%増。世界販売台数は228.6万台と前年同期比で約7.6%伸びている。為替の円安も寄与した北米は26.3%、アジアは12.3%の増収で、国内、ヨーロッパでの減収をカバーした。

 マツダ<7261>は売上高17.0%増、営業利益21.1%増、経常利益13.1%増。四半期純利益は5.3%減で増収、最終減益。営業利益は4~9月期としては過去最高を更新。中間配当は無配の前年同期から復配して15円とした。国内市場に投入した新型「ロードスター」「CX-3」「デミオ」は独自の環境技術「スカイアクティブ」ともども評判が良く、北米ではSUVの「CX-5」改良モデルや新型「マツダ2」(日本名デミオ)の販売が好調に推移した。為替の円安による効果は想定以上で、原材料安でコスト削減も進み、営業利益は9%減の減益予想が増益にひっくり返った。最終利益の減益は、前期に計上した税務上の繰越欠損金がなくなって今期から税負担が増えるため。

 富士重工<7270>は売上高22.2%増、営業利益53.6%増、経常利益62.0%増、四半期純利益70.9%増の大幅増収増益。中間配当は未定だったが前年同期から41円増の72円とした。世界販売台数の7割を占める北米市場では主力車種「レガシィ」、利益率が高いSUV「アウトバック」の販売が好調。

 三菱自動車<7211>は売上高3.4%増、営業利益6.8%減、経常利益20.4%減、四半期純利益14.5%減の増収減益。中間配当は8円。世界販売台数は52.1万台で前年同期比で横ばい。日本国内の販売台数は「軽」の苦戦がなおも続き、「アウトランダー」「アウトランダーPHEV」など登録車が前年同期を上回ってもカバーできず19%減。北米は22%増と好調、ヨーロッパは横ばい、新興国の経済低迷でアジアは9%減だった。営業利益は研究開発費、市場措置費用の増加分をコスト削減努力でカバーできず減益。それでも7~9月期だけとれば増益に転じ、業績面で上半期の会社計画は達成できている。

 スズキ<7269>は売上高8.7%増、営業利益11.7%増、経常利益15.3%増、四半期純利益46.5%増の増収、2ケタ増益。中間配当は前期より5円増の15円とした。国内売上は減少したが、ヨーロッパの売上は新型大型二輪「GSX-S1000」、新型コンパクトSUV「ビターラ」が寄与し22.7%増、アジアの売上はインドネシアで減少したが、インド、パキスタンで四輪車の販売が伸び23.2%増。利益面はインド子会社マルチ・スズキの増益が寄与した他、最終利益はフォルクスワーゲンAG株の売却益367億円を計上して大幅増益。業績は当初予想を上回って着地した。

 ダイハツ工業<7262>は売上高3.2%減、営業利益18.6%減、経常利益18.2%減、四半期純利益44.3%減の大幅減収減益で、「トヨタグループのお荷物」に変わりなし。中間配当は前年同期から6円減の16円とした。税額が1.5倍になった4月の軽自動車増税後、「軽」は直前の駆け込み需要の反動減が大きく響いて販売台数は前年同期を14%下回った。三井正則社長は「特に地方で消費者の負担感が大きく、想定以上だった」と述べている。海外でも特にインドネシアでは景気の低迷、ルピア安による物価上昇の影響で販売が伸び悩んだ。

 ■中国も懸念されるが東南アジアも良くない

 2016年3月期の通期業績見通しは、トヨタは売上高を2.1%増から1.0%増に下方修正。4~6月期の決算発表に合わせて行った3000億円の上方修正を元に戻した。営業利益1.8%増、税引前当期純利益3.0%増、最終当期純利益3.5%増は修正なし。最終利益は3期連続の最高益になる見通し。前期125円の期末配当、前期200円の年間配当は未定のままとした。4~9月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は55.9%だった。日本国内とアジアでの販売が想定よりも減ると見込み、ダイハツ工業、日野自動車を含めた今期のトヨタグループ全体の世界販売台数を1015万台から1000万台に引き下げた。前期比2%減で、それが3000億円の売上高下方修正の理由。アジア市場では、中国は堅調で目標を達成できそうだがタイやインドネシアの落ち込みが大きいという。大竹哲也常務役員は下半期の見通しについて、「1000億円の減益になるだろう」と述べた。為替差損や、研究開発費、労務費、減価償却費などのコスト上昇を織り込んでいる。

 日産の通期業績見通しは、売上高を1500億円上積みして6.4%増から7.7%増に、営業利益を550億円上積みして14.5%増から23.8%増に、経常利益を250億円上積みして10.2%増から13.8%増に、当期純利益を500億円上積みして6.0%増から16.9%増に、それぞれ上方修正した。2ケタの最終増益で10年ぶりに最高益を更新する見込み。期末配当予想は前期の16.5円から4.5円増の21円、年間配当予想は前期の33円から9円増の42円で修正なし。4~9月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は60.8%となっている。上方修正の理由として北米市場での販売好調、コストの削減、為替の円安を受けた円建てでの増収効果を挙げているが、中国での年間販売台数は計画を5万台引き下げた。

 ホンダは通期業績見通しの売上収益を1000億円上積みして8.8%増から9.5%増に上方修正。営業利益2.1%増、税引前利益0.2%減、最終当期利益3.1%増は修正なし。予想第3四半期末配当、予想期末配当とも前期と同じ22円、予想年間配当も前期と同じ88円で修正なし。4~6月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は59.7%だった。上方修正の理由は為替の円安の影響。好調な北米市場に下半期「シビック」を投入するが、タカタ<7312>製エアバックの新車への搭載は取りやめた。

 マツダは通期業績見通しを、売上高は1200億円積み増して7.1%増から11.1%増に、営業利益は200億円積み増して3.5%増から13.4%増に、経常利益は150億円積み増して1.1%増から8.2%増に、当期純利益は150億円積み増して11.8%減から2.4%減に、ぞれぞれ上方修正した。前期から5円増の15円の予想期末配当、前期から20円増の30円の予想年間配当は修正なし。4~9月期の通期見通しに対する進捗率は、営業利益は54.7%、最終利益は56.9%だった。主要市場の北米、ヨーロッパでの販売が好調で、ディーゼル車の比率は高いが、ディーゼルエンジンの排ガスデータをねつ造したフォルクスワーゲンの事件による「風評被害」の影響は軽微という。国内市場でも投入したばかりの新車が好評で販売台数が増えている。為替の円安効果、原料安によるコスト削減効果も出ていることから業績見通しを上方修正した。

 富士重工は通期業績見通しを、売上高は1800億円積み増して5.3%増から11.5%増に、営業利益は470億円積み増して18.9%増から30.0%増に、経常利益は520億円積み増して25.7%増から39.0%増に、当期純利益は350億円積み増して28.7%増から42.1%増に、それぞれ上方修正した。未定だった予想期末配当は前期から35円増の72円、同じく未定だった予想年間配当は前期から76円増の144円と発表した。年間配当利回りは約3%で株主還元大盤振る舞い。4~9月期の通期見通しに対する進捗率は営業利益は51.8%、最終利益は51.9%だった。吉永泰之社長は、2015年の北米市場の新車販売台数が60万台を超えて過去最高になる見通しを示した。2014年より5万台以上多く、北米販売台数が8年連続で前年実績を上回る。アメリカ工場の生産能力を2016年夏に約2倍の39万4000台に引き上げ、世界生産台数は100万台を超える見込み。

 三菱自動車は売上高4.6%増、営業利益8.0%減、経常利益14.3%減、当期純利益15.4%減の通期業績見通し、8円の期末配当見通しに修正はなかった。4~9月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は52.0%。通期の世界販売台数を105.3万台へ4.7万台下方修正している。アメリカでの自動車生産から撤退して岡崎工場に集約する生産体制の再構築中。SUV、電動車両の成長性に期待した世界戦略車「アウトランダー」「アウトランダーPHEV」に注力し、日本国内では通期黒字、北米では利益拡大を目指す。タイ、フィリピンでは「パジェロスポーツ」、インドネシアでは「トライトン」の販売に力を入れる。

 スズキは売上高は2.8%増で見通しを据え置いたが、営業利益は50億円上積みして5.9%増から8.7%増に、経常利益は50億円上積みして2.9%増から5.5%増に、当期純利益は150億円上積みして13.6%増から29.0%増に上方修正した。予想期末配当は前期と同じ17円、予想年間配当は前期から5円増の34円。4~9月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は63.2%だった。インドのマルチ・スズキは7~9月期最終利益は42%増と好調が続いており、VW株の売却益が最終利益見通しを押し上げる。

 ダイハツ工業は通期業績見通しを下方修正し、売上高は700億円減らして2.6%減から6.4%減に、営業利益は200億円減らして9.6%減から27.7%減に、経常利益は180億円減らして13.5%減から27.6%減に、当期純利益は130億円減らして12.0%減から31.0%減に、それぞれ修正した。2期連続の減収減益。予想期末配当も予想年間配当も未定のまま。4~9月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は24.2%しかない。通期の国内軽自動車の販売計画も63万台から前期比13%減の60万台に下方修正している。軽自動車税増税後のトンネルは、出口が見えない。(編集担当:寺尾淳)