【建設大手の4~9月期決算】あえて受注工事を選別しなくても工事採算が改善したため、大手4社は3ケタ増益続出

2015年11月11日 08:16

 11月10日、建設業界大手4社の4~9月期決算が出揃った。都心再開発やインフラ関連工事などの需要が拡大して受注増が続き、民間工事が多い建築部門では建設会社間の受注競争が緩和して工事単価が上昇している。一方、資材費や人件費などコストの高騰も以前よりはペースダウンし、前期のように「工事採算を重視して無理に受注を取りに行かない」という方針で臨まなくても、大手ゼネコンの採算は好転している。

 今年4月、オフィスビルの工事単価は床面積1平方メートル当たり20万円台まで上昇した。これはバブル末期の1992年以来、23年ぶりのこと。資材費では、中国の景気減速で建設資材の需給がゆるみ、基礎工事やビルの鉄骨に使われるH型鋼の価格は、原料の鉄鉱石や鉄スクラップの価格が低下したため前年同期比で7~8%安くなっている。建設作業員の人手不足も若干緩和し、人件費の上昇圧力も和らいでいる。工事採算の大幅改善により、4~9月期決算の利益項目は4社とも前年同期比3ケタ高がずらりと並ぶ。

 4社全て通期業績見通しの利益項目を上方修正した。この秋に今年度の補正予算が編成されて公共投資が上積みされると、下半期の建設需要はさらに伸びると予想される。なお、横浜市都筑区のマンションが傾いた問題の影響は、ゼネコン大手の施工案件に占めるマンションの比率は10%にも満たないため、業績を左右するほどの事態にはならない見込み。そのリスクは分散されている。

 ■最終利益は全社おおむね前年同期比2倍以上

 4~9月期の実績は、大成建設<1801>は売上高9.2%増、営業利益131.0%(約2.3倍)、経常利益110.2%(約2.1倍)、四半期純利益155.3%(約2.55倍)の増収、3ケタ増益。中間配当は当初予想より1円多く前年同期比2円増の5円とした。前期末までに震災復興など採算性の悪い公共工事の完工が相次ぎ、受注競争も緩和して受注価格が上昇。工事採算が改善した。

 大林組<1802>は10月に上方修正していたように、売上高2.9%増、営業利益152.7%増(約2.5倍)、経常利益104.6%増(約2倍)、四半期純利益96.7%増の増収、2~3ケタ増益。中間配当は前期比1円増の5円とした。国内の建築工事はオフィスビルや物流施設などの採算が改善。土木工事も設計変更に伴って追加工事が発生して収益が伸びている。労務費や資材費の上昇が想定ほど大きくなく、完成工事総利益率が当初見込みの6.4%から9.9%まで大幅に向上したことが大幅増益になった理由だという。

 清水建設<1803>は売上高14.8%増、営業利益145.6%増(約2.4倍)、経常利益98.2%増(約2倍)、四半期純利益105.4%増(約2倍)。完成工事高の増加、国内工事の採算性の改善で2ケタ増収、3ケタ増益。中間配当は前年同期比1.5円増の5円とした。

 鹿島<1812>は売上高4.7%増、営業利益867.2%増(約9.6倍)、経常利益414.6%増(約5.1倍)、四半期純利益220.5%増(約3.2倍)の増収、3ケタ増益。中間配当は前期比0.5円増の3円とした。土木事業で採算性が良い追加工事を複数受注して利益率が高まった。労務費や資材費も一時期よりは安定しておりコストの圧力が弱まっている。

 ■完成工事総利益率(工事採算)が大きく改善

 2016年3月期の通期業績見通しは、大成建設は売上高を400億円減らして1.1%増から1.5%減に下方修正。営業利益を160億円上積みして3.4%減から19.3%増に上方修正、経常利益を210億円上積みして16.7%減から11.5%増に上方修正、当期純利益を150億円上積みして10.0%増から49.3%増に上方修正した。営業利益と経常利益の見通しは減益から増益に変わった。予想期末配当は当初予想より1円多く前期と同じ5円に、予想年間配当は当初予想より2円多く前期比2円増の10円に上方修正した。4~9月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は55.3%だった。上方修正の理由は、完成工事総利益率が当初予想7.8%から9.3%へ1.5ポイント上方修正し、採算が大きく改善する見通しがあるため。

 大林組は通期見通しを上方修正し、売上高は300億円上積みして0.2%減から1.5%増に、営業利益は300億円上積みして3.3%増から65.3%増に、経常利益は290億円上積みして6.5%減から41.9%増に、当期純利益は200億円上積みして4.5%増から74.2%増に変わった。予想期末配当は前期比1円減の5円、予想年間配当は前期と同じ10円で修正はなかった。4~9月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は55.7%だった。上方修正の理由は国内工事の採算が改善していることと、完成工事総利益率の見通しを6.7%から9.3%に上方修正したため。

 清水建設の通期業績見通しは、売上高は400億円上積みして2.1%増から4.6%増に、営業利益は180億円上積みして25.9%増から61.9%増に、経常利益は200億円上積みして13.8%増から49.3%増に、当期純利益は130億円上積みして22.8%増から61.7%増に、それぞれ上方修正した。予想期末配当は前期比0.5円増の5円、予想年間配当は前期比2円増の10円で修正なし。4~6月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は44.5%だった。完成工事高の増加が見込まれるので売上高を上方修正した。公共投資が高水準を維持し、国内の民間設備投資も増加基調がなお続き、下半期も堅調な受注が続くとみている。建築工事の利益率の改善で大幅増益を見込む。決算発表の時点では旭化成建材が杭打ち工事を行った施工案件は調査中。

 鹿島は11月2日に通期業績見通しを修正しており、売上高は500億円減らして3.3%増から0.4%増に下方修正、営業利益は170億円上積みして215.8%増から350.0%増(4.5倍)に上方修正、経常利益は190億円上積みして101.3%増から190.2%増(約2.9倍)に上方修正、当期純利益は150億円上積みして65.1%増から164.2%増(約2.6倍)に上方修正した。減収でも利益は前期比でV字回復し3ケタ増益。予想期末配当は前期比0.5円増の3円、予想年間配当は前期比1円増の6円で修正なし。4~9月期の最終利益の通期見通しに対する進捗率は57.3%。売上高の下方修正の理由は国内、海外の工事の一部で受注や進捗の遅れが発生しているため。利益項目の上方修正の理由は減益の元凶だった不採算工事の損失処理が前期末でヤマを越し、追加工事を有利に受注できているほか、今期は労務費や資材費の上昇が一服し、完成工事総利益率が当初予想の6.4%から7.4%に改善される見通しがあるため。(編集担当:寺尾淳)