自殺大国といわれる日本。内閣府自殺対策推進室によると2015年1月~9月までの自殺者は1万8,158人となっている。2009年以降減少傾向にはあるものの、先進国の中でも依然高い数である。自殺未遂者が自殺を完遂する可能性は、自殺未遂者以外の者と比較して著しく高いといわれている。診療ガイドラインでは、自殺未遂で病院を受診した全ての患者に対して、専門家が心理社会的なアセスメントを行うことが推奨されているが、多くの患者はそのような支援を施されずに退院している。
これまでの先行研究では、自殺未遂で受診した患者に対する精神科医療について、確固たる有効性が示されてこなかった。日本では、自殺対策基本法に基づき、2008 年度の診療報酬改定にて「救命救急入院料 精神疾患診断治療初回加算」が新設された。これは、自殺企図等により救命救急入院に至った患者に対して、精神科医が診断・治療等を行った場合に、診療報酬が加算されるもので、自殺未遂者の再度の自殺企図を防ぐ目的で定められたが、その有効性は検証されていなかった。
そこで、東京大学大学院医学系研究科ユースメンタルヘルス講座 金原明子特任助教、公共健康医学専攻 臨床疫学・経済学 康永秀生教授、脳神経医学専攻精神医学分野 笠井清登教授らの研究グループは、入院を要する自殺企図手段の多くが過量服薬であることから、救命救急センターに入院した過量服薬の患者に対する精神科医の診察が、再入院の減少と関連しているかについて調べた。
救命救急センターに入院した過量服薬の患者について、368 病院から、29,564 人が抽出された。そのうち、1万3,035 人(44%)が介入を受けていた。また、1,961 人(6.6%)が再入院をしていたという。介入を受けやすい患者特性は、30 代・女性・統合失調症・気分障害・パーソナリティ障害・重度の意識障害・気管挿管(気道確保)を受けた患者・2012 年度退院患者だった。また、大学病院や病院症例数の多い病院は介入をしやすい傾向があったという。傾向スコアマッチングという統計的手法により 7,938 ペアが抽出された。マッチされた患者のうち 1,304 人(8.2%)が再入院していた。再入院率は介入群 7.3%、対照群 9.1%で、介入群の方が、対照群より再入院率が有意に低いという結果になった。また、再入院しやすい患者特性は、若年・女性・パーソナリティ障害・向精神薬の過量服薬の患者だった。
この研究により、救命救急センターに入院した過量服薬の患者に対して、精神科医の診察の施行率が低かったことが明らかになった。また、精神科医診察は再入院率の低さと関連していることが示された。研究は、自殺予防対策の一環として目標とされた「救急医療における精神科医療の充実」が、再入院予防において重要であることを、データを用いて示した。この結果は、今後の精神保健医療政策や自殺予防政策に、「自殺未遂者に対する救急医療における精神科医療の必要性」という示唆を与えるものと考えるとしている。(編集担当:慶尾六郎)