中小企業では若手・中堅社員のモチベーションには社長のリーダーシップが有効

2015年11月29日 15:02

 トーマツ イノベーションは、中小企業の人材育成に関する調査研究の結果を発表した。この調査研究は、中小企業における人材育成手法のイノベーションを目的に、人材育成研究の専門家で大企業や公共領域でのコンサルティング実績のある中原淳氏(東京大学准教授 / NPO法人 Educe Technologies副代表理事)と共同で、2014年11月より進めてきたもの。

 それによると、中小企業では社長と社員との距離が近いがゆえに、社長の影響力・存在感はあらゆる面で大企業に比べて大きいと考えられ、人材育成においても例外でないといった意見が聞かれるという。しかし今回の調査研究では、若手・中堅社員の「能力向上」や期待通りの「成果」・「成長」と「社長のリーダーシップ」とは相関がないことが明らかになった。若手・中堅社員のモチベーションには社長のリーダーシップが有効だが、実際の業務遂行においては管理職によるマネジメントが欠かせないことが分かるとしている。

 また、「社内勉強会や研修を実施すれば成果を出せる人材を育てられる」といった思い込みも見られるが、「若手・中堅社員が期待通りの成果をあげている」ことと、それらの実施の有無には相関がないことが明らかになった。社内勉強会などは決して無益ではないが、人材育成において必要十分とは言えないことが分かるとしている。

 若手・中堅社員の能力向上は、「社員に『背伸びの仕事経験』を意図的に積ませ、振り返りを通じて仕事のノウハウをストックさせることの有無との高い関連性が見出だされた。若手・中堅社員の「経験ストック」の有無は、上司の仕事の任せ方による影響が大きい。「うまい任せ方」ができている上司とできていない上司では、部下の経験ストックの度合いに有意に差が見られたという。

 上司から部下への仕事の「うまい任せ方」とは、1)仕事の意義づけを行い、2)予想される困難を示し、3)再度意義を確認し、4)部下のコミットを引き出す、という4つのステップを踏んで仕事を任せる方法である。この工程に不足があると、言葉足らずで、部下からするといわゆる「丸投げ」となってしまい期待した結果が出ない状況に陥りがちとなる。

 「日常業務ではない『未解の仕事』に若いときから取り組ませ、同時に『社長の薫陶』を実施すること」が管理職のマネジメント力と関連性の高い要素となった。「未解の仕事」とは、「顧客からのハードな要求への対処」「全社プロジェクト」「新規事業の企画」「部門を横断して協力する仕事」といった日常業務とはかけ離れた「答えややり方を自ら見つけなければならない仕事(未開の土地の開拓)」であり、取り組む人にとって「社長の薫陶」はセーフティーネットとなる。セーフティーネットのない「未解の仕事」は無理難題の押し付けとなり、せっかくの人材を潰してしまうような状況になりかねないとしている。

 「右腕幹部の育成のポイントは「仕事人としての将来の目標を持たせ、逆算して今できることを実行させること」であり、若手・中堅社員時代から始まることが分かった。なお、中小企業の経営者からは、将来のビジョンを考えさせることで人材の流出を懸念する声も聞かれるが、むしろ逆で、「経験ビジョン」を持たせた方が自社への愛着が増すことが分かったとしている。 (編集担当:慶尾六郎)