ドクターヘリに緊急事態 操縦士が足りない?

2015年12月25日 08:17

画・ドクターヘリに緊急事態 操縦士が足りない?

ドクターヘリの操縦士になるためのハードルは、恐ろしく高い。2000時間もの実績が本当に必要なのか、国交省が調査を始める

 災害や事故の現場に医師や看護師が同乗して駆けつけ、負傷者を治療するドクターヘリ。2008年にはテレビドラマでも取り上げられ、注目が高まった。病院へ到着する前に現場で治療を始められるのが最大の利点で、現在、全国39道府県で導入されている。搬送件数も年々増加し、14年度は年間2万2643回だった。

 8月24日に導入した富山県では、12月7日までに114件の出動要請があり、104回出動した。ヘリ要請から治療開始までの時間は平均で19分。ヘリがない場合は平均61分と推定されており、42分の短縮効果があった。

 一刻を争う救急現場でなくてはならない存在となりつつあるドクターヘリだが、最近表面化してきた問題がある。操縦士の不足だ。原因は2つ。ベテランが続々と退職を控えていることと、若手操縦士が育ちにくいことだ。2月時点でドクターヘリの操縦士は、兼務を含めて148人。うち3分の2を50歳以上が占める一方、35歳未満は一人もいない。

 若手が育ちにくい要因としては、農薬散布などの仕事が無線操縦の小型ヘリに取って代わられ、飛行経験を積む機会が減ったことがある。ドクターヘリの操縦士は事故現場に着陸するためより高度な操縦技術が求められ、業界団体が定める条件は「飛行時間2000時間以上」。一般の操縦士の条件が「飛行時間150時間以上」なので、かなり高い水準であることがうかがえる。

 もうひとつ要因としてあげられるのは、費用の面だ。現在、ヘリ操縦士の養成は民間機関でしか行っておらず、高額の学費や訓練費がかかる。その費用は総額1000万円以上にもなり、必然的に志望者数は伸び悩んでいる。

 この現状を改善するべく、国土交通省がドクターヘリ操縦士の要件見直しに向けて調査に乗り出す。来年度には操縦に必要な技量の調査を行い、今まで民間任せだった要件に関する指針を初めて策定する方針だ。また、ヘリ操縦士の資格取得のための奨学金制度拡充や、志望者のすそ野拡大へ、広報活動の強化も盛り込んでいる。
 
 11年の東日本大震災や14年の御嶽山噴火の際にも多くの負傷者を搬送したドクターヘリ。災害列島であるこの島で、ますますその需要は増えていくだろう。安全面の水準を落とさないことが大前提だが、より多くのなり手確保へ、行政の支援が必要だ。(編集担当:久保田雄城)