トヨタの新しいハイブリッド車「新型プリウス」のカタログに隠された情報とは?

2015年12月31日 12:42

PRIUS_E

新型プリウスの「Eグレード」は、“燃費40km/リッター超”のためのスペシャルモデルで売るつもりのない「広告塔」

 12月9日に発売となった新型ハイブリッド車「プリウス」の最も廉価な「Eグレード」で40.8km/リッターという燃費(JC08モード)性能を達成してみせたトヨタ。拍手を贈りたいところだが、新型プリウスの分厚いカタログの主要諸元表の片隅に、その燃費に関する気になる注釈が、諸元表の欄外に小さな文字で記されている。

 それは、40.8km/リッターを達成したEグレードに関する記載で、「(Eグレードに)メーカーオプション装備により車両重量が1320kg以上になった場合、39.0km/リッターとなります……」と。

 プリウスEグレードの車両重量は1310kg。これが、オプション装備を追加して10kg重くなると、新型プリウスの代名詞となる「リッターあたり40km超」クルマではなくなるというのである。

 その理由は、JC08モードの分かりにくい燃費の算出方法にある。JC08モード燃費値は、車両重量別に16段階に細分化した評価を実施している。細かな計算式の説明は省くが、大まかに言うと車両重量が重い区分ほど、JC08モード燃費値は悪くなる算出方法になっている。

 新型プリウスEグレードは、JC08モードによる燃費の算出では1196~1310kgという車両重量の区分にある。が、ひとつ上の区分である1311~1420kgになると、JC08モード燃費値を算出する際に不利になる。

 新型プリウスだけでなく、最新のトヨタ車には「トヨタ・セーフティセンス」と呼ぶ自動ブレーキを含めた衝突回避システムが装備される場合が多い。しかし、プリウスEグレードにはオプション扱いとなっている。プリウスEにAグレードに標準装備となる「セーフティセンスP」を装着とすると車重が10kg増加して、燃費基準1311~1420kg該当者になってしまうからだ。セーフティセンス以外のオプションを装備しても車両は重くなり、「重量区分がアップ」するというわけだ。

 おそらくだが、新型プリウスの開発にあたって、トヨタの大命題として「燃費40km/リッター超え」が掲げられてきたはず。そのためには何としても車重を「1310kg以内に収める」という宿命を背負った。“燃費スペシャルグレード”であるプリウスEグレードは、トヨタ自慢の安全装備を削ってまで、その役を演ずる役者となったのだ。

 実際、Eグレード車を見ると、車両重量を1310kg以下に抑える軽量化策に腐心した実態がいくつも確認できる。新型プリウスではグレードに応じてリチウムイオン電池とニッケル水素電池を使い分けている。軽量化で最も効いたのが、リチウムイオン電池の採用だ。Eグレードは、軽量化を優先して、コスト的に不利なを承知のうえで、敢えてリチウムイオン電池を採用した。リチウムイオン電池の重量は24.5kg。Sグレードが搭載するニッケル水素電池よりも15.8kg軽く、車両重量を1310kg以下に抑えるために必須の選択だったといえる。

 このほか、軽量化に腐心した例を挙げよう。まず燃料タンク、Eグレード以外の燃料タンクは43リッターだが、Eグレードは5リッター少ない。ウインドゥ・ウォッシャータンク容量も2リッターで、ほかのグレードより2.8リッター少ない。また、走行性能に影響するサスペンションのリアスタビライザーも省かれ、リアワイパーさえも無く、フォグランプも装備しない。また、適正なドライビングポジションを得るために必須と思われる運転席上下アジャスターは非装着で、小柄な女性などは適正なドライビングポジションが取れず、良好な視界も得られないだろう。つまらない装備と思われるかも知れないが、E以外に標準装備となる荷室のトノカバーも無く、リア席センターアームレストも非装着だ。また、ボディカラーも全9色中の4色しか設定がない。

 このようにEグレードは燃費「40km/リッター超え」を達成するためのスペシャルグレードで、あくまでもプリウスの技術的シンボルなのだ。恐らくだが、トヨタの販売店でEグレード(242.9018万円)の発注意志を申し述べても、セールス氏に「おやめになられた方が、よろしいかと存じます」と言われ、価格差5万円ほどで装備の充実したSグレード(247.9091万円)を丁寧に勧められると思う。前述した“削られた装備”と“電池の価格差”で一式5万円なのだから。プリウスEは、その燃費を喧伝する役目を担った広告塔なのだ。(編集担当:吉田恒)