矢野経済研究所では、国内のデジタル印刷市場の調査を実施した。調査期間は2015年11月~12月、調査対象は国内主要デジタル印刷事業者等。調査方法は同社専門研究員による直接面談、電話によるヒアリング、ならびに郵送アンケート調査を併用した。
それによると、2013年度のデジタル印刷市場(事業者売上高ベース)は、前年度比6.2%増の2,876億円となった。経済環境や企業業績の回復傾向を受け、特に金融業の顧客からの DPS、BPO案件の受託が増加した。また、少額投資非課税制度(NISA)関連の需要もあった。一方商業印刷分野においても、回復が見られたとしている。
2014 年度のデジタル印刷市場規模(同ベース)も、引き続き金融業からの受託案件が増加し、市場を牽引しており、前年度比 3.4%増の2,973億円と成長率は減少したものの、市場規模は拡大している。
カタログ・パンフレットや教材、製品マニュアル、POP などの品目におけるショートラン(小ロット・短納期)印刷においても、異業種からの参入企業を巻き込んだ小ロット需要を巡る熾烈な価格競争が起きている中で、デジタル印刷による印刷物の受注だけにこだわらず、その周辺のアウトソーシングニーズを取り込み、ワンストップでサービスの提供を目指す方向にシフトし始めているという。
同様に、オフセット印刷を主力とする事業者においても、デジタル印刷単体だけではなく、オフセット印刷案件やその付帯サービス、またはそれらにIT技術を付加させた複合的な提案をすることにより、顧客の業務をワンストップで請け負うことで、自社の売上拡大に繋げている事業者が増加している。
また、出版印刷分野におけるデジタル印刷の活用に関しては、コストと品質という 2 つの大きな課題は依然として残っているものの、出版社が自らデジタル印刷機を活用し始めたことで、出版社の意識に変化が現れ始めており、出版業の従来のビジネスモデルにデジタル印刷の入る余地が生まれている。現在、出版社やデジタル印刷機メーカーも含めた各事業者では出版業の新たなビジネスモデルの実現に向けた提案が活発化している。
2015年度のデジタル印刷市場(事業者売上高ベース)は3,847億円、前年度比 29.4%増と大幅な伸びとなる見込みである。この拡大要因としてマイナンバー制度関連の需要の取り込みが挙げられるとしている。
具体的にはマイナンバーの通知業務に関する受託案件とその後に発生するマイナンバーの収集業務に関する受託案件となる。個人番号通知カードは日本国内の全世帯に送付されるため、特に通知業務に関する受託案件は、これまでにない大規模なアウトソーシング需要となり、これが大幅拡大の主な要因となると考えられるという。
近年デジタル印刷市場は拡大傾向にある。ただここ数年、市場では二極化の傾向も見られており、全ての参入事業者が市場拡大を実感しているわけではない。市場環境も依然厳しさを保ったままであり、今後もマイナンバー制度関連の需要を主要因として、市場は拡大する見通しであるが、この恩恵に与れる事業者も一部となると見られるという。(編集担当:慶尾六郎)