2015年の景気は「踊り場局面」とする企業が半数を超えるなど停滞感の漂う一年となったが、政府は官民対話を通じて賃金の引き上げを要請している。そのため、雇用確保とともにベースアップや賞与(一時金)の引き上げなど、賃金改善の動向はアベノミクスの行方を決定づける要素として注目されている。
このようななか、帝国データバンクは、2016年度の賃金動向に関する企業の意識について調査を実施した。調査は、TDB 景気動向調査 2016年1月調査とともに行った。
2016年度の賃金改善が「ある」と見込む企業は46.3%だった。前回調査(2015 年度見込み)を 2.0ポイント下回り、リーマン・ショックで大幅減を記録した 2009年調査(2009年度見込み)以来7年ぶりの減少となった。また、2015年度は3社に2社が賃金改善を実施している
賃金改善の具体的内容は、ベアが35.5%(前年度比 1.2 ポイント減)、賞与(一時金)26.0%(同1.4 ポイント減)となった。2013年度以降3年連続で上昇していたベアは4年ぶりに低下した。
賃金を改善する理由は「労働力の定着・確保」が 73.8%で過去最高を記録。した。また「同業他社の賃金動向」の割合も過去最高を更新するなか、「自社の業績拡大」は3年連続で減少している。改善しない理由は、「自社の業績低迷」が 61.5%で最多となる一方、「同業他社の賃金動向」「人的投資の増強」は前年調査より 3 ポイント以上増加した。
2016年度の総人件費は平均2.49%増加する見込みとなった。従業員の給与や賞与は総額で約3.4兆円増加と試算される。
2016年1月に日本銀行が公表した「経済・物価情勢の展望」で、インフレ率 2%という目標の達成時期は2017年度前半へと先延ばしされた。そのようななかにあって、賃金の上昇はアベノミクスの成否を決定する重要なファクターとなっている。そのため、政府は官民対話等を通じて業績が改善している企業に対して賃金の引き上げを要請している。
2015年度には3 社に2 社が賃上げを実施したなか、2016年度も半数近くの企業が賃金改善を実施する見通しとなった。企業の総人件費は平均2.49%上昇すると見込まれ、従業員への給与・賞与は約3.4兆円増加すると推計される。
しかし、賃金改善の理由として「労働力の定着・確保」を挙げる企業は7割を超え、逆に業績が拡大したことを理由とする企業は3年連続で減少している。企業の賃金改善は、業績よりも労働力の定着・確保を第一に捉えて実地するという姿勢が明らかとなっているとしている。
本来的に、賃金は企業の業績拡大を通じて上昇することが望ましく、そうでない状況は長続きしえないだろうという。現状は人手不足が生じているなかでの賃上げで、業績はまだそれに追いついていない。賃金上昇を確実なものとし、安定的なインフレ率が達成されるためにも、企業業績の改善は一段と重要になってくる。残された時間は少ないとしている。(編集担当:慶尾六郎)