国内企業のIT投資はリーマンショックでの低下から次第に回復

2016年03月20日 12:02

 野村総合研究所(NRI)は、2015年12月に、国内企業におけるIT活用の実態を把握するためのアンケート調査を大手企業のCIO(最高情報責任者)またはそれに準じる役職者を対象に実施し、全業種にわたって501社から回答を得た。

 それによると、国内企業のIT投資は、2008年の金融危機(リーマンショック)での低下から次第に回復し、2011年度以降は「前年度比で増加」と回答する企業が増えているという。2016年度についても、「増加する」と予想した企業の合計(39.7%)が「減少する」の合計(13.9%)を大きく上回っている。

 しかし、支出の内訳は2008年以来ほぼ変化がなく、IT基盤関連費用(センター設備・ネットワーク維持費、システム運用など)とアプリケーション関連費用は、約半々の比率で推移している。さらに、アプリケーション関連費用を目的別で見ると、「業務効率化目的」の支出が約半分を占め、事業創造や競争力強化に必要な「戦略的な目的」の支出はアプリケーション関連費用の5分の1で、IT投資支出全体では10%弱に過ぎないとしている。この結果から、企業のIT投資は増加傾向にあるにも関わらず、支出目的は2008年から変わらず維持・運用や業務効率化が中心であることがわかるとしている。

 また、新技術への関心と取り組み状況についての設問からは、「デジタル化を推進する新しい技術」の採用はまだ少数であることがわかった。「データマイニング」を「導入済み」の企業は10.1%だったが、「ウェアラブル・デバイス/ウェアラブル・コンピュータ」「人工知能・機械学習」「IoT(Internet of Things)」「非構造化データベース」はいずれも5%未満といまだ少数だった。しかし、3~4割の企業がこれらの技術を「導入を検討中」「今後検討したい」と回答しており、注目度の高さとともに今後の進展も予想されるという。

 企業の「デジタル化」に相当する新たなIT活用やデータ活用の取り組みの9分野について実施・検討状況を尋ねたところ、実施企業が多かったのは「営業・販売データ(Web以外)に基づく顧客のニーズや行動の分析」(「積極実施」「実施」の合計32.5%)と「営業・販売現場での新技術導入による顧客への提案力の向上」(同27.4%だった。

 「デジタル化」を推進する11の施策について、 優先度を「高い」から「低い」まで5段階でたずねたところ、優先度が高い施策は上位から「全社的な活用方針・活用戦略の策定」、「情報システム部門と事業部門とのコミュニケーションや協業の促進」(ともに平均4.0)、「営業・販売データや顧客データの標準化・統合化」(平均3.7)だった。

 日本では企業が「デジタル化」をする上で、新技術やデータ分析などのスキルを持つ人材の確保が急務であると言われてきました。しかし、今回の調査結果からは、全社的な方針策定や組織間の協調、さらに現場ごとに作られたデータをいかに統合するかなど、「組織の壁」を越えるための施策の優先度が高いことが明らかになったとしている。

 これまでIT活用の主要な目的であったオフィス業務の効率化や、個々の事業部門のマーケティングに閉じた「デジタル化」ではなく、企業全体で戦略的に「デジタル化」を進める上で、「組織の壁を超える施策」を積極的に推進していくことが求められるとしている。(編集担当:慶尾六郎)