米国で乗用車を販売しているトヨタ自動車やゼネラル・モーターズ(GM)など世界の自動車メーカー20社が、2022年までに、米国内で販売するすべてのクルマに衝突回避・自動ブレーキを搭載する。米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)と自動車メーカー20社が合意した。安全への関心が高まるなか、世界に先駆け官民で対策をとる。日本の安全基準にも影響を与えそうだ。
NHTSAと日米欧自動車10社は、昨年9月に自動ブレーキの全面採用で合意していたが、今回の発表では米自動車市場のほぼすべてのクルマにまで対象メーカーを広げ、実施時期も明確にした。この合意より米国内で販売する99%のクルマに自動ブレーキが標準装備となる。
合意したメーカーは、米ビッグスリー3社のGM、フォード・モーター、FCAUS(旧クライスラー)、電気自動車ベンチャーのテスラ・モーターズのほか、欧州勢のフォルクスワーゲン、BMW、メルセデス・ベンツ、マセラティなど。日系企業ではトヨタやホンダ、日産、富士重やマツダなどが参加する。韓国の現代・起亜グループも含まれる。
メーカー各社は、これまでに自動ブレーキを標準装着するモデルを増やしてはいる。が、搭載車種は比較的上級モデルが中心で、コンパクトカーや低価車にはパッケージオプションとして用意しているのが一般的。
NHTSAによると、2015年の米国内交通事故死亡者は約3万8000人にのぼった。交通当局としても実効性ある対策が不可欠と判断したようだ。
今回の合意は法的義務ではないが、ブランドイメージともかかわるため各社とも対応を急ぐ。日本メーカーでは、ホンダや富士重が自動ブレーキの採用で他社に先行しているが、今後はすべての車種に搭載するためのコスト低減策が求められる。
米国内で自動ブレーキ搭載“実質的義務化”となったことを受け、日本など米国以外の国でも同様の“義務化”に動く可能性がでてきた。米国では、自動ブレーキの先にある“自動運転”でも連邦レベルで本格的なルール整備が叫ばれている。
この件について、早速トヨタが対応策を打ち出し、「2017年までに米国で販売するほぼ全車種について、衝突事故を防ぐために自動ブレーキ機能を装備できるようにする」とトヨタの米国法人幹部がミシガン州で報道陣に語ったとの報道が流れた。現在、トヨタが米国で現在販売している約30の車種のうち、自動ブレーキを装着できるのは「レクサス」などの13車種だけ。今後は小型車なども対象に加える。
米ビッグスリーにも同様の動きがみられる。自動ブレーキを含んだ自動運転車の実用化をにらみ、IT技術の開発強化に乗り出す。GMはこの3月、シリコンバレーの自動運転ベンチャー企業「クルーズ・オートメーション(Cruise Automation)」を買収すると発表。フォード・モーターは自動運転技術を使うサービスを手がける子会社を設立した。グーグルやアップル・コンピュータなどIT企業とも競争が激しくなるなか、中核技術となるソフト開発力を高める。
自動ブレーキのシステムは、各社によって異なるが、ステレオカメラやレーザーレーダー、ミリ派レーダーや赤外線などで前方のクルマや障害物、歩行者などを検知するセンシング技術が重要だ。
日本でも先般、長野県軽井沢町で発生した「スキーツアーバス事故」を受け、国土交通省が「貸し切りバス」にドライブレコーダー設置を義務付ける方針を明らかにした。かつて、日本では2014年にESPなどの「横滑り防止装置」の標準装着を義務化した。「事故を避ける、軽減する」ために有効な自動ブレーキ、日本でも同じように義務化される日がくるか。(編集担当:吉田恒)