5月10日、総合商社大手6社の2016年3月期本決算が出揃った。2015年3月期に引き続き、原油や鉄鉱石や銅など資源価格の下落が各社の資源分野を直撃。2015年3月期は巨額最終赤字の「住商ショック」が大きな話題だったが、今回は日本を代表する「ザ・商社」三井物産、三菱商事が揃って最終赤字になった。両社とも全体に占める資源関連ビジネスのシェアが大きいので、資源安は売上減、営業減益に直結し、海外の投資先からの配当収入が減り、さらに固定資産の減損損失を計上して最終利益も押し下げられるという悪循環に陥っている。2017年3月期も資源価格の低迷がなお続いており、資源分野には明るい希望が見えない。今期も金融や機械、生活関連など非資源部門でどれだけ稼いでカバーするかが商社の業績を左右しそうだ。
なお、「商社は株主還元に積極的」「配当性向を高めて投資利回りが良い」と投資家の人気を集めてきたが、さすがに業績がこれだけ悪化すれば配当原資が乏しくなり「ない袖は振れず」で、今期の年間配当予想は三井物産と丸紅は減配、住友商事と双日は配当据え置き。今期、増配を予定している三菱商事も前期は減配だった。
■「ザ・商社」の三井、三菱が最終赤字決算
2016年3月期の実績は、三井物産<8031>は売上高11.2%減、税引前利益94.4%減。当期損益は3269億円の黒字から669億円の赤字に、最終当期損益(連結純損益)は3064億円の黒字から834億円の赤字に、それぞれ赤字化。年間配当は64円で据え置き。赤字決算になった元凶は資源価格の下落で、商社の中で資源部門の比率が最も高いため、原油や鉄鉱石などの価格下落に直撃された。チリの銅事業の減損損失などが響き、持分法による投資損益が1446億円の黒字から1320億円の赤字に変わったことも、業績をよりいっそう悪化させ、最終赤字を招いた。
三菱商事<8058>は収益9.7%減、税引前損益は5747億円の黒字から928億円の赤字に、当期損益は4063億円の黒字から1326億円の赤字に、最終当期損益は4005億円の黒字から1493億円の赤字に、それぞれ赤字化。年間配当は20円減配し50円。三菱商事も三井物産同様、最終赤字の元凶は資源価格の下落。チリの銅開発事業、オーストラリアのLNGや鉄鉱石の事業で減損損失を計上し、資源分野の最終損益は765億円の黒字から3802億円の赤字に変わった。非資源分野も前々期に計上したローソン株の減損戻し入れ益のような一過性の要因が消えて減益では穴埋めができず、会社創業以来初という最終赤字を余儀なくされた。
伊藤忠商事<8001>は収益9.1%減、営業利益17.0%減、税引前利益22.9%増、当期純利益6.5%減、最終当期純利益20.0%減で減収減益。2015年3月期の大幅最終増益から一変した。それでも年間配当は4円増配して50円。原油、石炭、鉄鉱石などの市況低迷でエネルギー・化学品事業、金属事業など資源関連部門は減収で採算も悪化。最終利益は2期ぶりの減益になった。オーストラリアの石炭事業や青果物事業などで減損損失を計上しているが、鉢村剛CFOは「将来に向けてありとあらゆる資産を見直し、前倒しで減損損失を計上した」と説明している。
住友商事<8053>は売上高11.8%減、営業損益は1137億円の黒字で843億円の赤字から黒字転換、税引前損益は1401億円の黒字で185億円の赤字から黒字転換、当期損益は885億円の黒字で708億円の赤字から黒字転換、最終当期損益は745億円の黒字で731億円の赤字から黒字転換。損益が揃って黒字に変わり、2015年3月期の「住商ショック」から1期で黒字化した。年間配当は50円で据え置き。健闘したのは建機事業で、不振だったのは資源関連。減損損失は1951億円で、そのうち資源が1553億円で約8割を占める。マダガスカルのニッケル事業が大きく、鉄鉱石や石炭でも追加の減損処理を行った。アメリカの鉄鋼商社、オーストラリアの穀物会社でも減損損失を計上したが、それでも2015年3月期の合計3103億円は下回っている。
丸紅<8002>は売上高12.3%減、営業利益35.1%減、税引前利益27.3%減、当期利益40.1%減、最終当期利益41.0%減の大幅減収減益。年間配当は5円減配して21円。資源価格の低迷で2ケタの減収。石油・ガス開発事業で1103億円、チリの銅事業で359億円、オーストラリア鉄鉱石事業で202億円の減損損失を計上した。素材、輸送機のセグメントは増収。生活産業、素材、電力・プラントのセグメントは営業増益だった。
双日<2768>は売上高2.4%減、営業利益12.8%減、税引前利益15.8%減、当期利益3.1%減、最終当期利益10.4%増の減収、最終増益。2015年3月期の増収増益から一変したが、2ケタ最終増益は確保した。年間配当は2円増配して8円だった。化学品事業がアジアで好調で食糧事業とともに営業増益で、自動車事業は固定資産売却益を計上して利益が増加し、インドネシアの石炭事業の評価益も計上したが、鉄鉱石、石油などエネルギー、金属部門の販売不振と、241億円の減損損失に抑えられた。
■やはり非資源分野に期待をかけるしかない
2017年3月期の通期業績見通しは、三井物産<8031>は最終当期損益(連結純損益)だけを公表し、2000億円の黒字を見込んでいる。予想年間配当は14円減配して50円。前期が赤字決算なのに、いつまでも高いと思うな配当利回りだろう。減損処理の問題について松原圭吾最高財務責任者(CFO)は「資源、非資源ともに必要な手当は行った」と述べている。大きな減損損失が出ないことを前提に金属資源事業は450億円、機械・インフラ事業は600億円のセグメント利益を見込んでいる。
三菱商事<8058>は最終当期利益(連結純利益)だけを公表して2500億円の黒字を見込んでいる。予想年間配当は10円増配して60円。しかし、今期の最終黒字も増配も資源分野が黒字化できるかどうかに左右される。最高財務責任者(CFO)の増一行常務執行役員は「全ての事業で資産を厳しく見積もり、資源分野も非資源分野も減損リスクは一掃されている」と述べたが、資源分野の事業環境は依然として厳しい。決算と同時に発表した中期経営計画では「非資源分野で主体的に強みや機能が発揮できる事業への成長投資を実行する」と、非資源に期待をかける。
伊藤忠商事<8001>は収益1.6%減、営業利益6.0%増、税引前利益43.5%増、当期純利益35.0%増、最終当期純利益45.6%増という減収、大幅最終増益を見込む。予想年間配当は5円増配の55円。最終利益は減損損失など特殊要因がなくなると想定し過去最高益を見込んでいる。関係維持を目的に2月から、9月にユニーGHDと合併予定のファミリーマート株の買い付けを行っている。
住友商事<8053>は2017年3月期から売上高の通期業績予想を作成しない方針。税引前利益は21.3%増、最終当期利益は74.4%増を見込む。予想年間配当は50円で据え置き。今期も資源事業を取り巻く環境は厳しいが、減損損失の減少を見込んで最終利益は大幅増。非資源分野ではCATVのジュピターテレコムなどで増益を見込む。高畑恒一専務執行役員は「投資効果が出て本格的に回復するのは来期(2018年3月期)」と話す。その来期を最終年度とする中期経営計画は、連結純利益は3000億円から2200億円以上に、ROE(自己資本利益率)は10%から9%程度に、それぞれ下方修正した。
丸紅<8002>は売上高2.4%増、営業利益4.1%減、税引前利益109.8%増(約2.1倍)、当期利益99.9%増(約2.0倍)、最終当期利益108.8%増(約2.1倍)の増収、大幅最終増益を見込む。予想年間配当は2円減配して19円。前期の減損損失を「一過性」とみなして採算のV字回復を見込むが、前期の決算見通しでも当初、同じことを言って大幅増の利益見通しを出していた。
双日<2768>は売上高8.1%増、営業利益50.5%増、税引前利益19.7%増、最終当期利益9.5%増の増収増益を見込む。予想年間配当は8円で据え置き。資源関連は引き続き不振でも、非資源部門の化学品事業、プラント事業、航空機事業でカバーして増益になると見込んでいる。(編集担当:寺尾淳)