注目される「6・01」今国会会期末

2016年05月21日 09:07

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5月18日、国会で行われた党首討論で、自民党総裁の安倍晋三総理と野党第1党・民進党の岡田克也代表とのやりとりから、現行の「平和憲法」に対する姿勢の違いが鮮明になった

 5月18日、国会で行われた党首討論で、自民党総裁の安倍晋三総理と野党第1党・民進党の岡田克也代表とのやりとりから、現行の「平和憲法」に対する姿勢の違いが鮮明になった。

 結論から言えば、安倍総裁は集団的自衛権について、他国と同じレベルの、いわゆる『集団的自衛権をフルに行使できる普通の国家』にすることが、日本の平和と国民を守ること、世界の平和につながるとの考え方であり、その実現には「憲法9条」(戦争の放棄)の改正をしなければできないとの考えを浮き彫りにした。

 一方、岡田代表は、安倍政権が憲法解釈を変更し、限定的に集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行う以前の歴代政権が堅持してきた「集団的自衛権は有していても、現行憲法下では行使は認められない」との平和憲法堅持こそ、日本の平和と安全、世界に貢献しうることになるとの考えで、安倍総裁が「民進党も憲法改正草案を示すべき」と求めたのに「変える必要がないと思っているので、示す気はない」と断言した。

 岡田代表は「民進党の考えは、むしろ、公明党の考え(現行憲法の規定に新たに時代が求める、あるいは、求められる条項を書き加える『加憲』の考え)に近い」と現行憲法堅持を強く示した。

 今回の党首討論は自民・民進のトップの憲法姿勢を非常に分かり易く国民に示した内容のある党首討論だった。その概要を取り上げた。

 この日、岡田代表は「総理は自民党の憲法改正草案について、国民主権・基本的人権の尊重・平和主義など現行憲法の基本原理は、自民党の憲法改正草案においても貫かれていると(国会で)答弁されたが、ここで貫かれている平和主義とは何なのか」と質した。

 安倍総裁は「71年前、二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない。この不戦の誓いのもと、平和主義を貫いてきた。その中で憲法9条があり、武力の行使について3要件がかかっている。そして『二度と他国を侵略しない』『戦禍に世界の人々を巻き込むことはしない』。これこそ、まさに平和主義であろうと思います。同時に、今進めている『積極的平和主義』は世界の平和を維持していくためにも、貢献していこうということであります」と答えた。

 岡田代表は「自民党の憲法草案の『9条2項』には『自衛権の発動は妨げない』となっている。自衛権の意味は国連憲章に書いてある『集団的自衛権の行使』(限定的なものでなく、全面的なもの)といわれている。そうなると、自民党の憲法改正草案『9条』で禁止されているものは何なのか。総理は今、侵略戦争といわれたが、国連憲章でも禁止されており、そんなことはいわずもがなだ。わざわざ『侵略戦争をしません』というのを『平和主義とは言わない』。平和主義という国家の名の下で、どういう行為が禁じられているのか。お答えください」と総裁の考えを求めた。

 安倍総裁は「自民党の憲法改正草案は、われわれが野党時代につくったもの。これは憲法を変えてはならない、憲法議論をしてはいけないという空気をかえる一石を投じるものになった」と草案を示した意義を強調した。

 そのうえで「憲法改正には衆参両院で3分の2の賛同を得なければならない。そのうえで、国民の過半数の賛成を得て成立するもの。自民党が両院で3分の2を得るのは不可能なことであり、多くの方の賛同を得るには憲法審査会で議論を深めていくこと。その議論を深めていくところにおいて、一石を投じた。議論を深めていく役割を果たしている」と述べた。

 そして安倍総裁は「憲法前文からすべて、私たちの案は示している。民進党からは、そうした具体的なものは出ていない。民進党からも、最低限、草案を出して頂かなければ議論のしようがない」と憲法草案を出すように求めた。

 これに岡田代表は「我々は草案を出すつもりはない」と断言した。「本当に憲法改正の必要な項目があれば、それはしっかり議論したい」と必要な項目があれば、その部分の改正への議論には応じる考えを示した。

 岡田代表は、この中で、憲法改正議論の立ち位置について「わたしは、あなたたち(自民)とは違う。GHQがたった4日間でつくりあげたしろもの(憲法)と言って、憲法全部をとっかえなければいけないという(あなたたちの)考えとは違う」と指摘し「同じ与党でも、公明党のみなさんの考え方に近い」と切り返した。

 安倍総裁は「侵略しないというのは当たり前とおっしゃったけれども、この世界の中で、起こっているじゃないですか」と反論し「平和主義とは、そういうこと(侵略)をしないということなのです」と返した。

 また安倍総裁は「そういう状況をつくらないように、貢献していく事が大切なのです。当たり前といえば、それがなくなるものではない。当たり前にするには、その努力をしなければならないということは申し上げておきたい。我々は必要な自衛の措置しかとらない。また、とれるのは必要な自衛の措置に限られている」と強調した。

 そのうえで、安倍総裁は憲法議論を深めるために、草案を示すよう、再度、岡田代表に求めた。

 岡田代表は「わたしは今の憲法9条を当面、変える必要はないと思っている。だから案はない。今の憲法で良いと思っている。総理の答弁で、総理の平和主義というのは侵略戦争を禁じるということしかないのだということが良く分かった」と返した。

 そのうえで、「自民党の憲法改正草案は集団的自衛権の行使を限定無く認めるというもので、平和主義といっても、考え方が全くちがっている。『いかなる紛争も法の支配を尊重し、武力の行使ではなく、平和的、外交的に解決すべきである。この原則をこれからも固く守り、世界の国々にも働きかけて参ります』というのは、昨年8月の安倍総理の談話だ。(侵略に対する自衛は別として)武力の行使ではなく、平和的、外交的に解決する。これこそ平和主義。海外紛争を日本が武力行使することにより解決しないという一線をこえてしまって、集団的自衛権の行使を全面的に認めてしまった時、日本国憲法の平和主義が壊れる。そこは、国のあり方が本当に問われるところであり、国の形が変わること」と指摘し「私たちは絶対に認めるわけにはいかない。参院選挙で国民の判断を仰ごうではありませんか」と安倍総裁に投げた。

 安倍総裁は「自民党の憲法草案は、平和主義を貫いているというほかの多くの(国々の)憲法と相通じるところがあり、国連憲章と言わんとするところはだいたい同じ」と反論し、「自民党憲法改正草案にも、平和主義は貫かれている」と主張した。

 ただ、諸外国や国連憲章以上に、憲法9条は武力によらない平和の追求と、その外交努力を政府に求めているからこそ、世界から注目される規定になり「ノーベル平和賞」の対象にも持ち上げられるほどの崇高さを有し、軍拡路線への歯止め、平和外交拡充に効果をあげてきたことは否定できない。

 6月1日、今国会の会期末を迎える。7月10日と言われる参院選挙は安保法制が施行なって後、初の国政選挙。安倍総理が総理在任中に憲法改正を行いたいという思いを変えていなければ、任期中で唯一の参院選挙となる。

 参院での議席増に有利と判断すればダブル選挙に踏み切るとみる方が自然。選挙すれば衆院では自民の議席(現在291)を減らすことになるが、安倍総理の自民党総裁としての任期が2018年9月までなので、さらに1年半前後(2018年1月前後)に、衆院選挙で巻き返せば憲法改正が安倍総理に見えてくる可能性はある。安倍総理にとって、憲法改正が政治家としての至上命題であるとすれば、その決断もあり得ると私的に思っている。その意味でも今国会会期末が注視される。(編集担当:森高龍二)