【今週の展望】雇用統計ショックに加えメジャーSQ週の鬼門

2016年06月05日 20:09

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日本の人口より多いアメリカの雇用者数。その増加が市場予測より11.7万人少ないと、マーケットはこの世の終わりのようになる。掛川市の人口が、世界をひっくり返す?

 今週、6月第2週(6~10日)は5日間の取引。10日は指数先物もミニ先物もオプション取引も全て清算値を算出する「メジャーSQ」の日。7日、8日は鬼門の「SQ週の火曜日、水曜日」で下落注意。

 世界の主要株式市場の休場日は、6日にニュージーランド、韓国が、9日に旧暦5月5日の「端午節」で香港、中国本土市場、台湾が、10日も「端午節」で中国本土市場、台湾が休場する。なお、6日にイスラム圏が「ラマダン(断食月)」に入る。7月5日までで大相撲名古屋場所の初日の前に終わる。5月場所は前頭7枚目で9勝6敗と勝ち越した大砂嵐関は、今年は腹いっぱい食べて上位と対戦できる。

 国内の経済指標、イベントは、8日のGDP改定値、景気ウォッチャー調査が重要。5月の街角景気は「爆買い伝説の終わり」で悪化しているかもしれない。

 7日には4月の景気動向指数速報値、8日には1~3月期のGDP改定値、4月の国際収支、5月の景気ウォッチャー調査、9日には4月の機械受注統計、5月のマネーストック、東京都心部オフィス空室率、工作機械受注、10日には5月の国内企業物価指数、4月の第三次産業活動指数が発表される。

 6日に財務省の浅川財務官が「パナマ文書」に関する講演を行う。9日に日銀の中曽副総裁が講演を行い、記者会見も開く予定。10日は「メジャーSQ」の日。

 主要銘柄の決算発表は10日が多い。

 6日は学情、くらコーポレーション、ピジョンなど。7日はイーブックイニシアティブジャパンなど。8日はイハラケミカル工業、東京楽天地など。9日は積水ハウス、ロック・フィールド、日本ビューホテル、スバル興業、シーイーシーなど。

 10日はベルグアース、ケア21、アスカネット、テンポスバスターズ、アゼアス、日東製網、モルフォ、エイチーム、フリービット、gumi、クミアイ化学工業、ナイガイ、カナモト、東京ドーム、精養軒、丹青社など。

 新規IPOは今週もなし。来週15日に再開し、来週は4件ある。

 海外の経済指標、イベントは、6日の米中戦略対話、イエレン議長の講演、10日のミシガン大学消費者信頼感指数が重要。

 6~7日に北京で米中戦略経済対話が開かれる。6日にイエレンFRB議長の講演がある。7日は人口の多いカリフォルニア州などでアメリカ大統領予備選挙が実施される。民主党の候補はクリントン氏で固まるか。

 6日にはアメリカの5月の労働市場情勢指数(LMCI)、7日にはユーロ圏の1~3月期のGDP改定値、アメリカの4月の消費者信用残高、労働生産性指数、8日には中国の5月の貿易収支、9日には中国の5月の消費者物価、生産者物価、アメリカの4月の卸売在庫、卸売売上高が発表される。

 7日にオーストラリア、インド、8日にブラジル、9日にニュージーランド、韓国で政策金利が発表される。

 10日にはアメリカの6月のミシガン大学消費者信頼感指数、5月の財政収支、12日には中国の5月の鉱工業生産指数、小売売上高、固定資産投資が発表される。

 アメリカの主要企業の決算発表は、めぼしいものはない。

 前週末3日の終値は16642.23円だった。そのテクニカル・ポジションを確認すると、移動平均は16598円の75日線だけが下にある。25日線は16684円で42円上、5日線は250円上、200日線は17810円で1168円も上にある。前週は5月31日に大きく上昇して、はるかな〃宇宙空間〃を周回していた200日線の背中がうっすら見えたのに、6月2日に急落して25日線も75日線も下回り、3日も終値で25日線を超えられなかった。200日線は遠ざかりゆく彗星のように、その光が虚空の闇の中へ消え入りそうになっている。

 日足一目均衡表の「雲」は6月3日時点で16239~16707円。前週の2日に雲の中まで落ちたのはちょっと意外だったが、3日も日経平均は雲の中でもがいていた。今週の雲の上限は6日、7日は16738円だが、9日、10日は16668円に下がる。下限は6日は16428円だが、7日以降は16542円に上がる。厚さは310円から196円、126円と薄くなっていく。それだけ雲のサポート力が低下するので、下げ始めると歯止めがきかなくなる恐れがある。怖いのはSQ週の火曜日、水曜日の7日、8日。来週、さ来週の週末にはその雲は「変化日の兆候」といわれる「ねじれ」を起こす。

 3日終値は25日移動平均のわずか42円下なので、ボリンジャーバンドでは25日線-1σの16373円と+1σの16995円の間、ニュートラルゾーンのほぼど真ん中にある。上にも下にも動きやすいポジション。

 オシレーター系指標は、5日続伸の大躍進で5月31日は「買われすぎ」シグナルの百花斉放、百家争鳴だったが、6月1日、2日の続落で毒草狩りにでもあったように一斉消灯。3日終値では買われすぎシグナルも売られすぎシグナルも点灯していない。数値を確認しておくと、25日騰落レシオは95.3、25日移動平均乖離率は-0.3%、RSI(相対力指数)は54.4、RCI(順位相関指数)は+19.6、サイコロジカルラインは8勝4敗で66.7%、ストキャスティクス(9日・Fast /%D)は34.9、ボリュームレシオは63.1となっている。

 5月27日時点の需給データは、信用買い残は5月20日時点から431億円減の2兆4899億円で、信用倍率(貸借倍率)は3.79倍から3.57倍に減少。裁定買い残は577億円増の1兆9179億円で、3週連続で増加した。信用評価損益率はマイナス11.32%で、5月20日時点のマイナス11.50%からマイナス幅が0.18ポイント縮小し、2週間ぶりに改善していた。東証が発表した5月23日~27日の週の投資主体別株式売買動向によると、外国人は3週ぶりの705億円の売り越し、個人は3週連続の1103億円の売り越し、信託銀行は4週連続の157億円の買い越しで、売り越し勢力のほうが優勢だった。

 カラ売り比率は5月30日37.0%、31日40.9%、6月1日39.4%、2日43.0%、3日42.3%で、「異常ライン」の40%を超えた日が日もあった。薄商いで現物を売買する市場参加者が少なく「プロの相場」になっていたことも関係していそうだ。日経平均VI(ボラティリティー・インデックス)は6月3日終値では26.86で、5月27日終値の25.75から1.11ポイント上昇した。大幅安の6月2日は27.51まで上がっている。前週はそんな「どこかおかしい週」だった。

 日本時間で3日の午後9時30分、アメリカの5月の雇用統計が発表された。その結果は、まるで悪魔に呪われたかのように、衝撃的で世界のマーケット関係者を震撼させるものだった。非農業部門雇用者数の伸びは3.8万人で市場予測の15.5万人も4月の12.3万人もはるかに下回った。発表時、「本当は13.8万人で、数字の最初の1が抜けているんじゃないか?」と目を疑った人もいただろう。名付けるなら「ベライゾン・ショック」。通信大手ベライゾンのストライキが大きな影響を及ぼし情報通信セクターの雇用者は3.4万人減。製造業、鉱業も減っていた。

 一方、完全失業率は4.7%で、4月から0.3ポイントも下がりリーマンショック前の2007年11月以来の水準。「失業者が少なすぎると雇用の流動性が悪く、雇用者数が伸びなくなる」というパラドックスも、存在するのかもしれない。平均時給は25.59ドルで+2.5%の伸びと、悪くはなかった。

 雇用指標の「悪化」を受け、「これでは今月、利上げなんかできない。ましてやFOMC直後に英国のEU離脱を問う国民投票もある」という観測で、発表直後の為替のドル円レートは一時106円半ばまで2円を超えるドル安円高進行。NYダウは一時150ドル近い下落。日経平均先物夜間取引は16250円まで下落した。ISM非製造業景況指数は52.9で4月の55.7、市場予測の55.3を大幅に下回った。製造業受注は4月比で+1.9%で市場予測と一致。原油先物価格は下落して48ドル台。ドル安がさらに進行し為替のドル円は106円台半ばだったが、NYダウの終値は31ドル安、CME先物清算値は16330円だった。

 こんな「椿事」に襲われると、今週前半の東京市場はいきなり混乱必至。反応が反応を呼んで6日前場は16000円付近までの下落も覚悟だ。後場は押し目買いで持ち直しても、7日、8日は「鬼門」のSQ週の火曜日、水曜日。ましてや6月はメジャーSQで、需給面での混乱要素たっぷり。それを通過して週末にかけて25日移動平均付近まで反発する局面があっても、波乱の1週間になりそうだ。

 テクニカル的にはトレンド系指標もオシレーター系指標も、上にも下にも動きやすい。ボリンジャーバンドの25日線-2σが16061円にあり、心理的な節目の16000円は歯止めとして作用しそうだが、6日のイエレン議長の講演で利上げに慎重な発言が飛び出してドル安が進行したり、8日の日本のGDP改定値、景気ウォッチャー調査が悪化したりすると、薄商いが恒常化して売り崩しにもろい東京市場は日経平均が16000円を守れず、ズルズル下に行ってしまうかもしれない。

 ということで、今週の日経平均終値の予想変動レンジは16000~16700円とみる。恨むなら、ベライゾンのストを恨むより、日本の総人口よりも多いアメリカの非農業部門雇用者数約1億5110万人(4月のフルタイム、パートタイム合計)が、予想の0.102%増ではなく0.025%増で0.077ポイント下にずれたら世界のマーケットが天国から地獄に突き落とされる「ウルトラ針小棒大システム」のほうを恨むべきだろう。1972年にアメリカの気象学者エドワード・ローレンツが唱えた「バタフライ効果」を理解できる絶好の教材が、ここにある。(編集担当:寺尾淳)