6月10日時点の需給データは、信用買い残は3日時点から123億円増の2兆5549億円で2週連続の増加。信用倍率(貸借倍率)は3.75倍から3.73倍へわずかに減少。信用評価損益率は-10.48から-10.33へわずかに増加。裁定買い残は4799億円減の1兆3633億円で、2週続けて減少した。
東証が発表した6月6日~10日の週の投資主体別株式売買動向によると、外国人は2235億円の買い越しに転じ、個人は2週連続の295億円の買い越し、信託銀行は6週連続の1488億円の買い越しと、「需給三国志」が買い越しで統一されていた。こんなことは珍しい。
メジャーSQだった前々週10日に「何かの間違いではないのか?」とも思えた47.1%まではね上がったカラ売り比率は、13日が43.3%、14日が42.0%、15日が41.9%、16日が44.8%、17日が41.1%で、10日は「異常値」ではなく、その後も40%台が続いていた。このハイレベルなカラ売り比率が、週間騰落1001円安を招いた容赦ない売り浴びせの何よりの証拠と言えそうだ。
その恐怖は、日経平均VI(ボラティリティー・インデックス)にもあらわれていた。6月17日終値は34.51で、10日終値の25.96より8.55ポイント高い。16日終値は35.56で、過去3カ月間で最高値だった。前週はシカゴのVIX指数(恐怖指数)も上昇し、世界はリスクオフにおおわれていた。
英国の国民投票はマーケットにとって、どうしてそんなに恐怖なのか? それはEU離脱が「初めての経験」だからである。加盟国が増えるばかりで離脱が一度もなかったEUにとっても、加盟から43年が経過して政治も、経済も、社会の隅々まで「EU」の基準やルールや補助金が浸透している英国にとっても、国際政治にとっても、世界のマーケットにとっても、想像ができるような範囲を超える出来事だからだ。
「英国にとっては初めてではない」と指摘する人がいるかもしれない。英国は、強硬に反対していたフランスのドゴール大統領が1969年に退陣したおかげで1973年1月、EUの前身のEC(ヨーロッパ共同体)に加盟できた。ところがその翌年の総選挙で「EC加盟の見直し」を政権公約に掲げた労働党が勝利して政権交代。ウィルソン内閣は1975年6月5日、EC残留の是非を問う英国史上初の国民投票を実施した。2月の世論調査は離脱派が優勢だったが、本番では残留派が離脱派にほぼダブルスコアの差をつけて圧勝し、英国はEC残留を選択した。
とはいえ、これは41年も前の話。当時と今とでは、欧州連合(EU)それ自体も英国国内の事情も、全く様変わりしている。単純に「これが2回目」とは言えないのだ。
誰でも、初めての経験は怖い。だから縮こまる。それは本能的な反応で、前週の世界的なリスクオフはマーケットの防衛本能とも言える。それは日本時間で24日のザラ場に国民投票の結果がわかるまで続くだろう。それまでの間は、基本的に前週末と同じような状況が続くことになる。為替のドル円で言えば104~105円台、日経平均で言えば15500~16000円のレンジである。
それでも、情勢は投票当日まで動く。直前の世論調査の結果に、16日に起きた残留派のコックス下院議員の殺害事件がどう影響するか。大衆紙「サン」はその前日に離脱派支持を表明したが、犯人が離脱派の政治団体名を口にしたことで論調がどう変わるか、見ものだ。残留派が浮動層から同情票を集めるだけでなく、今までムードに流されてきた〃どちらかといえば離脱派〃が「人殺しと一緒にされたくない」と、なだれを打って残留派に寝返って結果は圧勝という、まるで映画のような展開もあるかもしれない。もし映画化されたらその宣伝コピーは「一人の女性の死が、世界を絶望から救った」だろうか。
圧勝とまでいかなくても、もし結果が残留派勝利だったら、為替のドル円は106~107円台へ円安が進行し、日経平均は最低でも日足一目均衡表の雲の下限や25日移動平均線がある16500円付近までは上がるだろう。
もし結果が離脱派勝利だったら、為替はどこまで円高になるか、日経平均はどこまで奈落の底に沈むか、それこそ「予測不可能」だ。ドル円100円割れや日経平均10000円割れのような「アベノミクス全否定」という事態も、全くないとは言えない怖さがある。ただ、このシナリオはコックス下院議員殺害事件で可能性が低下したと思われるので、あえて考えないでおく。17日は「EU離脱の可能性は薄れた」という見方で英国ポンド、ユーロが大幅反発し、ロンドン市場FT100指数は金融セクターを中心に急反発。ドイツ、フランスの株価も上昇した。
ということで、今週の日経平均終値の予想変動レンジは15500~16500円とみる。2年前のスコットランドの独立の是非を問う住民投票は、直前の世論調査は独立賛成派がリードしていたが、フタを開けてみれば独立反対・英国残留派が55.3%対45.7%で勝っている。事が終わった後、世界のマーケットをさんざん振り回した世論調査の信ぴょう性が、厳しく問われるかもしれない。(編集担当:寺尾淳)