矢野経済研究所では、CAE 市場についての世界及び日本国内における調査を実施した。調査期間は2016年1月~5月、調査対象はCAE ベンダ。調査方法は同社専門研究員による直接面談、電話・e-mail によるヒアリングを併用した。
それによると、2015年の機械系CAE世界市場規模(事業者売上高ベース)は、前年比6.9%増となる31億3400万USドルとなった。これまで中国を筆頭に新興国が世界経済をけん引してきたが、2015年以降は資源価格の低迷や中国経済の成長率鈍化などが影響し、世界経済が減速しつつある。製造業の設備投資額の影響を受けやすいCAE市場も、成長率は鈍化していくと見込んでいるという。ただし、市場は中期的にみると安定的な成長を続け、2020年の機械系 CAE 世界市場規模(同ベース)は46億5500万 US ドルになると予測している。
2015年の機械系 CAE 国内市場規模(事業者売上高ベース)は前年比4.7%増となる672億3200万円となった。2015年までの数年間で、極端な円高から脱し、円安に転換したことが奏功し、輸出型製造業の業績は好転している。世界経済の停滞感をうけ、日本経済の動向も不透明感がでてきているが、製品開発期間の短縮など CAE への期待は根強く、機械系 CAE 市場は安定的な成長を続ける見通しである。今後も市場は成長し、2020 年の機械系 CAE 国内市場規模(同ベース)は918億円になると予測している。
CAEの主流は、これまで強度や流体における抵抗などの特性を計算する構造解析や熱流体解析などである機械系CAEであった。現在、モデルベース開発と呼ばれる手法が自動車の設計等の開発現場で適用されるようになってきたことで、CAEにも新たな動きがでている。モデルベース開発においては、機械や電機、電子、油圧、熱、制御など、多分野にまたがる複雑なシステムのモデリングが適用され、熱や運動などの物理現象と制御信号を統合的に取り扱う場面が増えてきている。それらを支援するツールとして、新たに1DCAEが利用されるようになってきた。今後、1DCAEと、従来の機械系CAEの連携は大きなテーマになってくるものと考える。
また、将来的に IoT(Internet of Things;モノのインターネット)が普及し、さまざまな機械類の稼働データなどが集められるようになれば、そのデータをもとに解析を行い、保守や製品開発に活かすような取組みが進められる。CAE は IoT 時代に向けて、さらに大きな役割が期待されるとしている。
機械系CAEをクラウドコンピューティング環境で利用することは、現時点ではあまり普及しているとは言い難いという。ユーザー側にはセキュリティの懸念、ベンダ側には従来のライセンス販売を主体とするビジネスモデルとの相性の悪さなどの要因がある。
しかしながら、クラウドベースの機械系CAEアプリケーション活用事例も増えつつあるという。機械系CAEについては、開発段階の一時期に集中して利用されることが多いため、使いたいときに使った分だけ料金を支払うことができるクラウドサービスとは、親和性が高いといえる。今後、ユーザー側での活用事例が増えるとともに、機械系CAEのクラウド環境における利用シーンは本格化するものと考えるとしている。(編集担当:慶尾六郎)