【今週の展望】雇用統計待ちのSQ週は上下に振らされそう

2016年07月03日 20:17

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前月の雇用統計は予想外の悪さだった。「また悪いのでは?」と不安になるのは、楽観予想がウルトラ級の凶事にひっくり返された出来事のせい。ましてや今週はSQ週。

 東証が発表した6月20日~24日の週の投資主体別株式売買動向によると、外国人は2週続けて1301億円の売り越し。個人は4週連続の355億円の買い越し、信託銀行は8週連続の1250億円の買い越し。個人の買い越し減少分を信託銀行の買い越し増加分が補っていた。

 前々週の6月24日に42.4%にはね上がったカラ売り比率は、27日は37.3%、28日は42.2%、29日は39.6%、30日は39.8%、7月1日は41.0%と、40%前後の水準からなかなか下がらなかった。それは異常なままだったが、一方で日経平均VI(ボラティリティー・インデックス)の7月1日終値は27.62で、6月24日の高値43台、終値40.71から前週は日を追うごとに低下した。それは異常が日常化してしまうことなく、「いつも通りの日常」に戻っていったということ。

 兜町には昔から「半値戻しは全値戻し」という言葉がある。「百里を行く者は九十里を半ばとす」(『戦国策』秦策・武王)という教訓の逆で、「五十里に達すれば、百里はもう近い」という楽観主義ととられてしまいそうだが、時の勢いは人の予想を超えるという意味に解釈すればいい。

 暴落には、反作用のバネがきく。ロンドンFTSE100指数は全値戻しどころか、6月30日にはまるで悪い冗談のように年初来高値まで更新してしまった。さすがは英国。チャーチルとバーナード・ショーが歴史に残る皮肉の応酬を繰りひろげた国。マーケットまで偏屈な皮肉屋の本領を発揮している。

 だが、その背景には英国が持つ別の一面も垣間見えていた。それは英国紳士・淑女の「矜持と自負心」。イングランド銀行(BOE)のカーニー総裁はカナダ人だが、ポンドが売られるのをあえて承知で夏に金融緩和を行うとはっきり予告し、パニックの震源地の責任として自らの政策で混乱に幕を引く強い意志を世界に示した。オズボーン財務相も緊縮財政を棚上げして財政健全化の目標達成を断念した。「矜持と自負心」は「高慢と偏見」に陥りやすい危うさもはらむが、前週は好ましい側面があらわれていた。

 それは、「緊急会合」と称して、まるでアリバイ工作のように「小田原評定」をいたずらに繰り返すどこかの国とは大違い。終値ベースの最安値から7月1日までのリターン率が、かたや167.3%、かたや56.7%と約3倍の大差がついたのも、納得がいく。

 半値戻しがやっとだった日経平均。24日の1286円安の「全値戻し」は23日終値の16238.35円だが、7月1日時点の25日移動平均線が16139円で、今週もしそれをクリアしたとしても、なお99円ある。今週、参議院選挙は10日の投票日の直前で東京都知事選挙も控え、政府、与党は政策に動きづらい。東京市場は8日のアメリカ雇用統計待ちの様子見が出やすく、5日の火曜日、6日の水曜日には「鬼門」の鬼が待つSQ週。来週のLINEの上場待ちで資金を待機させる動きが出るかもしれず、テクニカル指標はトレンド系もオシレーター系も前週よりニュートラル寄り。今週、上昇しても25日線をクリアできるかどうかは怪しい。上値は16000円をクリアできてそこまで、ではないだろうか。

 一方、下値は今週、大幅安に要警戒。海外市場は前週のリカバリーが順調すぎ、揺り戻しが怖い。東京市場のリカバリーは控えめだったが、海外が下げたら、それが増幅されてもっときつく下げてしまう悪いクセが再発する恐れがある。下値のメドとしては、前週28日に割り込んでもすぐに反発し、下げ止まりポイントだった15000円を想定する。その近辺にはボリンジャーバンドの25日線-2σの14926円もある。

 ということで、SQ週の今週は上下に大きく振らされて、日経平均終値の予想変動レンジは15000~16000円とみる。

 前週、EU首脳会議が開かれたが、各国首脳の態度がよそよそしく、英国を突き放しているように見えた。その一方では英国がオーストラリアやカナダや南アフリカと組んで「英連邦経済圏の復活」という、世界大恐慌後のブロック経済の亡霊がよみがえるかのような話が語られ、人気を集めている。

 当時の英国、フランスのブロック経済は、締め出されたドイツ、イタリアの国民感情を悪化させ、ファシズムを増長させた。約80年後の今はフランス、ドイツ、イタリアはEUの側にいて、国民感情が暴走した英国を経済ブロックから締め出そうとしている。対仏ならぬ「対英大同盟」で情け容赦ない「制裁」を加えないと、EU域内に英国のマネをする国が出てこないとも限らない。悲しいかな、それはヨーロッパが中世以来、宿命的に抱え続けている地政学の知恵なのだろう。(編集担当:寺尾淳)