4月に事業持株会社制に移行してから初の決算。持株会社東京電力ホールディングスは水力発電と原子力発電、フュエル&パワー社は火力発電、パワーグリッド社は送電、変電、配電、エナジーパートナー社は顧客サービスを受け持つ。4~6月期は火力発電燃料のLNGや重油の価格が低下し、燃料費は前年同期比43.3%減。しかし燃料費調整制度で電気料金が連動して引き下げられたために電気料収入は21.1%減だった。
中部電力は売上高15.2%減、営業利益32.8%減、経常利益32.4%減、当期純利益31.7%減で2ケタ減収減益。最終利益の2017年3月期の通期業績見通しに対する進捗率は56.8%と大きい。燃料費の下落と、燃料費調整制度に基づく電気料金改定の間のタイムラグで出てくる差益が縮小した。停止中の浜岡原発は2基が原子力規制委員会の新規制基準の適合性確認審査を受けているが、再稼働の前提の安全対策工事の延期を正式に表明した。
関西電力は売上高10.8%減、営業利益28.5%減、経常利益32.0%減、四半期純利益22.7%減の2ケタ減収減益。総販売電力量は6.9%減。2015年の6月と10月の2段階で電気料金を値上げした増収効果は、その後の燃料費調整制度による料金引き下げ、販売電力量の減少で相殺されて2ケタ減収。火力発電の燃料費などの営業費用は8.7%減だった。
2017年3月期の通期業績見通しは、東京電力HDは全機停止している柏崎刈羽原発の運転計画を示せないため未定のまま。再稼働のメドは立っていない。年間配当予想も無配見通しのまま。7月、経済産業省が福島第一原発の廃炉に関して新しい支援措置の検討に入ったと報じられた。原子力損害賠償・廃炉等支援機構の公的な基金から廃炉費用の援助を受け、東京電力HDが長期で返済するスキーム。電気料金への転嫁は認めないという。
中部電力は通期業績見通しを下方修正し、売上高は100億円減で前期比8.2%減から8.6%減に、営業利益は150億円減で47.4%減から52.6%減に、経常利益は150億円減で49.1%減から55.0%減に、当期純利益は100億円減で26.4%減から32.3%減に、それぞれ修正した。年間配当予想は5円増配の30円で修正なし。
燃料費下落と電気料金の値下げの間のタイムラグによる差益は350億円から200億円に下方修正した。販売電力量の減少は最終利益ベースで30億円の下振れ要因と見込んでいるが、経営効率化の努力で吸収は可能とみている。浜岡原発の南海トラフ巨大地震対策の防波壁はすでに完成したが、再稼働のメドは立っていない。もし3基とも再稼働すれば月125億円、年間1500億円の利益押し上げ効果が出ると見積もっている。
関西電力は「原子力プラントの具体的な再稼動時期が見通せないことなどから、現時点では一定の前提を置いて業績を想定することができない」という理由で業績、配当見通しは全て未定のまま。
7月、値下げの代わりに新電力プランを10月に導入すると発表した。月に350キロワット/時の電気を使う標準的な3人世帯で月に約3%、約300円安くなるという。ポイントが貯まり、キャンペーンで3月までは割引率がさらに1%上乗せ。基本料が高いため266キロワット/時以下の世帯は逆に現行プランよりも割高になる。高浜原発の再稼働が挫折して値下げができなくなったこともあり、関電管内では6月末までに26万500件が新電力に乗り換えている。そのまま放置はできないと、「採算に乗るおいしい世帯」を狙い撃ちする新電力への対抗策を講じた。
電力小売の自由化で、東電、中電、関電の間でお互いのエリアの契約者を取りあう「越境供給」が活発になっている。主戦場は巨大な需要地の東電管内の首都圏で、九州電力は千葉県、中部電力は茨城県、関西電力は千葉県にそれぞれ火力発電所を取得して周波数50ヘルツの電気の供給を始めている。東京電力は逆に60ヘルツの中電や関電の管内に進出。中国電力も関電管内に進出するなど、電力の地域独占はすでに過去のものになっている。(編集担当:寺尾淳)