【ヤマハ発動機の2016年1~6月期決算】急速な円高に見舞われた上半期は減収減益で、通期業績見通しを下方修正も、経営努力で収益力は改善

2016年08月08日 10:24

 ■主要分野の二輪車、マリンは「稼ぐ力」を維持できている

 8月4日、ヤマハ発動機<7272>が2016年1~6月期(第2四半期/中間期)決算を発表した。8月1日付でシャープ<6753>に代わって日経平均を構成する225種銘柄に採用されている。

 前年同期比で売上高は6.1%減、営業利益は10.9%減、経常利益は25.7%減、四半期純利益は37.8%減という減収、2ケタ減益決算。第2四半期末の中間配当は当初、前期から13円増配して35円とする予想だったが、5円減らして30円とした。それでも前期比で8円の増配になる。

 セグメント別では、売上比率が高い二輪車、マリン、特機の各事業が減収減益。産業用機械・ロボット、その他の各事業は増収増益だった。

 二輪車事業は、売上高9.4%減、営業利益18.0%減。先進国はヨーロッパでの販売台数増を北米での流通在庫調整が相殺して前年同期並みだったものの営業黒字を確保。新興国の販売台数は国ごとに好調、不調がまちまちでトータルでは前年同期並み。現地通貨安で円ベースの売上が落ち込んだが、営業損益では商品ミックスの改善やコストダウン効果などで「稼ぐ力」をキープし、円高の影響は吸収できている。

 マリン事業は、売上高0.8%減、営業利益5.9%減。メインの北米で船外機などが販売台数を伸ばしたが、円高で円建ての売上、利益が目減りした。営業利益率は依然20%を超えて「稼ぐ力」を維持している。

 特機事業は、売上高1.2%減、営業利益49.7%減。ゴルフカートもスノーモービルも販売台数が減少。

 産業用機械・ロボット事業は、売上高0.7%増、営業利益6.8%増。世界的にロボットの販売台数が伸びて増収増益。

 その他の事業は、売上高3.5%増、営業利益51.6%増。為替の影響がない日本国内で電動アシスト自転車の販売台数が増加し、ヨーロッパ向けの自転車用電動ドライブユニットの輸出も大きく伸びた。

 地域別では、日本国内と北米は減収減益、ヨーロッパ、アジアは減収増益、南米などその他の地域は減収減益だった。

 北米市場は二輪車、大型船外機、四輪バギーの販売数量は増加しても、為替の円高で円ベースの売上は減少している。ヨーロッパ市場では新商品の投入効果で二輪車の販売台数が増加。アジア市場の二輪車販売はヤマハ発動機にとって重要な市場であるインドネシアと中国が悪かったが、台湾、インド、フィリピン、ベトナム、タイでは増加している。その他の地域では、資源価格の低下で五輪景気が相殺されたブラジルの二輪車販売が悪かった。

 ■円安への反転に期待せず利益の確保に努力する

 ヤマハ発動機は中間期決算の発表と同時に、2016年12月期の通期業績見通し、予想年間配当をそれぞれ下方修正した。

 売上高は2000億円減らして1兆5000億円とし、前期比5.2%増から8.0%減に、営業利益は150億円減らして1050億円とし、7.9%減から19.4%減に、経常利益は300億円減らして950億円とし、0.2%減から24.1%減に、当期純利益は200億円減らして600億円とし、33.3%増からほとんどプラスマイナスゼロに、それぞれ修正している。当初見通しは最終利益は2ケタ増でも営業減益、経常減益で保守的だったが、今回の下方修正では米ドル、ユーロなど主要通貨の円高を背景に最終利益の増益幅をゼロとし、さらに保守的になっている。

 2016年度下半期の想定為替レートはドル円は100円、ユーロ円は110円とした(通期トータルはドル円106円、ユーロ円117円)。ドル円当初の通期の想定レートはドル円が117円、ユーロ円は127円だったので、どちらも前期比で17円も円高方向に振れている。上半期実績も累計ではドル円112円、ユーロ円125円だったが、下半期は現在の円高の状況が変わらずに続くと想定している。

 予想期末配当は当初見通しから5円減らして中間配当と同じ30円に下方修正。それでも前期比で8円増配。年間予想配当は10円減らして60円。前期比16円の増配になる。

 ヤマハ発動機は2016~2018年度の中期経営計画で、連結ベースで売上高2兆円、営業利益1800億円、営業利益率9.0%という数値目標を掲げ、「既存事業の稼ぐ力を高める」と強調している。今期の事業戦略でも主要事業で「稼ぐ力」を高めることにポイントを置いている。下半期の課題は、柳弘之社長が「この程度のレートが下限であってほしい」と話すドル円100円、ユーロ円110円でも安定的な利益を出せる体制づくりになる。

 「稼ぐ力」がつけば、為替の円高という逆風が吹いても打たれ強く、利益を確保できる。1~6月期の二輪車、マリン事業で営業利益の減益がそれほどひどくなかったのはある程度の「稼ぐ力」がついていたからで、特機事業の営業利益がほぼ半減したのは「稼ぐ力」がまだ、物足りなかったと言える。

 「稼ぐ力」の原動力は、商品ミックスの戦略的改善、プラットフォーム化によるコストダウンと、商品競争力の強化。商品競争力を支えるのは、新商品をコンスタントに出せる商品開発力を確保し、将来の成長につながる技術革新が生み出せる研究開発投資。ヤマハ発動機では2018年度までの中期経営計画総額1300億円、2016年度単年度で400億円という成長投資額は下方修正しない方針。

 その成長戦略の重要なカテゴリーとしては、世界最高速の表面実装機、ロボット、電動アシスト自転車、2016年中に設計、試作テストの段階まで進ませたいという四輪車の他、アメリカでのアグリ事業が挙げられる。

 8月4日、ヤマハ発動機はヤンマーと、アメリカでのROV(レクリエーション・オフハイウェイ・ビークル)事業に関する業務提携で合意したと発表した。ROVをアメリカ全体に農家向け販売網を持つヤンマーにOEM供給し、2017年1月から発売する予定。2020年までに5000台の販売が目標。

 スケールが大きい北米のアグリ市場に対しては、UMS事業の産業用無人ヘリコプターがカリフォルニア州から飛行許可を取得し、ナパ・バレーなど同州のワイン産地で農薬散布用に売り込みをかけている。人手の散布作業と比べてコストが約10分の1になるという。カリフォルニア州のブドウ栽培面積は約26万ヘクタールで、日本全体(約1.9万ヘクタール)の13.7倍もある。柳社長は「カリフォルニアワインのほとんどに当社の産業用無人ヘリコプターが関与する日は近い」と、大きな期待を口にする。(編集担当:寺尾淳)