【医薬品業界の4~6月期決算】4月の薬価改定で国内は苦戦。海外は円高がデメリットにもメリットにもなる

2016年08月09日 20:19

 ■第1四半期の進捗率が良くても悪くても通期業績に修正なし

 2017年3月期の通期業績見通しは、武田薬品は売上収益は4.8%減、営業利益は3.2%増、税引前利益は9.9%増、最終当期利益は9.8%増。第1四半期の利益項目が全て通期見通しを上回っても上方修正しなかった。予想年間配当180円も修正なし。毎期、1~3月期に開発中の新薬の減損損失を計上しており、それに加え研究開発拠点の統廃合に伴う費用として最大約250億円を計上するため、通期では利益が大きく減る見込み。

 がん、消化器系、神経系の3分野の競争力強化を目的に研究開発体制を見直し、研究拠点はがん、消化器系はアメリカのボストンに、中枢神経系は日本の湘南研究所に集約する。英国ケンブリッジ、中国、ブラジルの研究機能は大幅に縮小するが人員リストラは原則行わない方針。この統廃合で2017年3月期は約250億円、2018年3月期は約500億円の費用が発生するが、コスト削減効果も年間180億円程度出ると説明している。

 アステラス製薬は売上高1.7%減、営業利益7.2%増、税引前利益2.4%増、当期純利益1.7%増、最終当期純利益1.7%増の減収増益で修正なし。予想年間配当も前期から2円増配の34円で修正していない。「イクスタンジ」「ベタニス」などの海外販売は好調が続く見通し。8月に旧・山之内製薬が設立して泌尿器系疾患薬を製造していたアメリカ・オクラホマ州の生産子会社を、医薬品受託製造会社アバラ・ノーマン・ファーマシューティカル・サービシズに売却すると発表した。人員リストラは行わないが、7~9月期に減損損失が約90億円発生する見通し。

 第一三共は売上収益6.7%減、営業利益23.3%減、税引前利益18.3%減、最終当期利益21.0%減の減収、2ケタ減益で修正なし。予想年間配当は前期と同じ70円でこれも修正なし。北米市場では主力薬だった高コレステロール血症治療薬「ウェルコール」の特許が切れた影響が出てくる。「エドキサバン」「インジェクタファー」がそれに代わる収益の柱になれるかどうかがカギ。

 田辺三菱製薬は第1四半期が増収、2ケタ増益だったが、売上収益4.5%減、営業利益7.7%減、税引前利益7.5%減、当期利益5.0%減、最終当期利益3.9%減の減収減益の通期業績見通しも、前期から2円増配して48円の予想年間配当も修正しなかった。薬価改定による特許切れ医薬品の売上減が約180億円あると見込んでいる。新薬の臨床試験などで研究開発費が通期で50億円程度増える見通し。海外に供与している多発性硬化症治療薬「ジレニア」、糖尿病治療薬「インヴォカナ」のロイヤルティー収入が想定外に伸びれば、業績見通しの上方修正もありうる。

 大日本住友製薬は売上高1.7%増、営業利益8.3%増、経常利益13.6%増、当期純利益1.2%増の増収増益で修正なし。前期と同額の予想年間配当18円も修正していない。主力薬の「ラツーダ」「メロペン」「アイミクス」が業績を支える見通し。iPS細胞を使ったパーキンソン病治療薬に続いて、2018年からがん細胞を狙い撃ちする新型バイオ医薬品「核酸医薬品」の開発にも乗り出す。

 エーザイは売上収益5.9%増、営業利益3.4%増、税引前利益3.4%増、当期利益41.1%減の増収、最終減益の通期業績見通しも、前年と同じ150円の予想年間配当も修正していない。第1四半期の進捗率は最終利益ベースで67.5%と高水準だが、柳良平COOは業績の上方修正について「為替動向をもう少し見きわめたい」と述べている。

 塩野義製薬は売上高2.6%増、営業利益0.1%増、経常利益0.6%増、当期純利益6.5%増。前期比6円増配の予想年間配当68円ともども修正しなかった。8月、睡眠誘導剤、抗うつ剤など特許切れ医薬品21品目を、インドの後発薬大手ルピン傘下の共和薬品工業(大阪市)に154億円で売却すると正式に発表した。12月に移管する。特許切れ医薬品を切り離して新薬開発に経営資源を集中させる。その業績への効果も売却益も今期の連結業績には織り込み済みという。(編集担当:寺尾淳)