小中学生にデジタル教科書 メリットとデメリット

2016年08月16日 08:11

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ある民間の調査会社によると、2015年度に52億円だった教育用タブレットの市場規模は、20年度には2120億円に急拡大すると予測されている。学校の無線LAN整備や企業による端末や電子教材の開発も加速しそうだ

 教科書の内容をタブレット端末などに収めた「デジタル教科書」。文部科学省は2020年度に全国の小中学校で導入する案を示している。導入後しばらくは紙の教科書と併用される予定だが、将来的には紙かデジタルのいずれかを選択して使う「選択制」の仕組みを検討している。教科や学習内容によってはデジタル教科書だけを使うことも認めた。音声や動画を活用することで学習効果を高めることが期待されている一方、費用の問題や健康への影響など懸念されている点も多く、一筋縄ではいかないようだ。

 「いま議論されているのは子どもが持つ紙の教科書をどのようにデジタル化するかという点だ」。東北大学大学院の堀田龍也教授は7月に行われたデジタル教科書教材協議会でこう語り、現在広く利用されつつある「指導者用デジタル教科書」とは別の議論が必要だとした。児童・生徒用のデジタル教科書は紙の教科書の内容をそのままタブレット端末などに収めたもので、動画や音声、ページの拡大や書き込みといった追加機能が付いている。英語の発音を聞いたり、算数や数学の図形を動画で立体的に学んだりできる効果が期待されている。試験導入した学校の教員からは「子どもたちの学習意欲が高まった」という声も多く寄せられているそうだ。

 一方で、子ども用デジタル教科書の普及には課題も多い。第一にあげられるのが端末代を含めて1人数万円から10万円とされる費用負担の問題だ。現在、義務教育の小中学校で使う紙の教科書は法律に基づき無償で配布されている。しかし文科省はデジタル教科書については無償化の検討をしておらず、家庭や自治体の負担がどれほどになるのかはまだ不透明だ。仮に負担がそれ相当な額になれば、自治体ごとに対応にばらつきがでてしまう可能性もある。教育用PCでさえ、2015年時点で児童・生徒1人1台を達成している自治体も、取り組み自体を始めていない自治体も両方あるのが現状だ。さらに無線LANなどデジタル教科書を使用するための環境整備やデジタル教科書制作のコストにも大きく影響を与える著作権の問題もある。デジタル教材は出版社が紙の教科書とは別に権利者との間で契約を交わして著作物を利用しているためだ。そして有識者会議では「視力や脳の発達に影響はないのか」といった健康面の不安や、「動画や音声などの機能に依存しすぎて、実際に書く力や考える力が育たなくなるのでは」といった教育面でのデメリットを懸念する声もあった。

 コストの問題をクリアして、学習効果が確かにあることを実証した上で健康面でもリスクがないことを裏付ける―。デジタル教科書の導入には、まだまだ超えなければならないハードルがたくさんある。(編集担当:久保田雄城)