近年、様々な分野で富裕層向けのビジネスが活発になっている。日本では少子高齢化による人口減少が社会問題となっているが、その中において、日本の富裕層人口は、GDP成長率の0.6%よりもはるかに水準が高い年率3.9%で伸長しており、今後も成長性の高い市場と期待されている。
富裕層について明確な定義づけはないが、民間のシンクタンクである野村総合研究所が便宜上、日本の全4900万世帯を金融資産の保有額によって5つの層に区分したものが現在、一般的な定義になりつつある。具体的には、不動産、負債などを除く純金融資産で5億円以上保有する人たちを「超富裕層」、1億円~5億円を「富裕層」、5000万円~1億円を「準富裕層」、3000万円~5000万円を「アッパーマス層」、3000万円以下を「マス層」と区分している。
超富裕層、富裕層が上顧客であるのは言うまでもないが、今、最も注目されているのが「ニューリッチ」とも呼ばれる準富裕層だ。準富裕層は親の資産などではなく、自分の力で資財を築き上げた人が多く、上位層である富裕層よりもむしろ購買意欲や消費意欲が高いといわれている。そのため、富裕層向けビジネスの主要ターゲットになっているのだ。
富裕層向けのビジネスと言えば、自動車や旅行、ブランド商品など様々だ。航空会社やカード会社の特別サービスや、通販業者でも、年間購入額が一定以上に達すると専用フリーダイヤルサービス、商品選択のアドバイスをしてくれるコンシェルジュサービスなどを展開している業者もある。しかし、富裕層向けのビジネスの最たるものといえば、やはり不動産だろう。
ここ数年、大手住宅メーカーを中心に富裕層をターゲットにした高額で高品質な住宅商品の開発が盛んにおこなわれている。
例えば、大和ハウス工業は2014年に約60億円投じ、高級住宅向けの生産能力を約3倍に引き上げている。同社は、都心に住まう富裕層向けに4?5階建ての中層階戸建て住宅「skye(スカイエ)」を展開しているが、天井高が標準よりも20センチ高い2メートル60センチを確保し、解放感と高級感が演出されている。
木造注文住宅を手がけるアキュラホームも昨年、高価格帯の新ブランド「AQレジデンス」を開発し、富裕層をターゲットにした高級住宅市場に参入している。同商品の最大のポイントは、日本を代表する大工、左官、庭師の匠の技を融合して個人住宅に取り入れて、既製品ではない「世界に一つだけの家づくり」を実現している点にある。また、価格は4800万円(205㎡)からで、同社調べで市場価格より3割程度安く提供することに成功して、人気を集めている。
また、パナホームも今年4月に、富裕層向け戸建住宅CASART『こだわりの邸宅』の拡販を強化するべく、兵庫県・伊丹展示場に第1弾拠点となるモデルハウスを開設した。同モデルハウスでは、日本の住まいの美を生かした上質なデザイン・素材や、ワイドな開口のある明るく伸びやかな大空間等、最先端のノウハウと技術を高品位に具現化している。
住宅商品をはじめとする富裕層ビジネスの多くでみられる共通点は、高額であるが、その金額以上の価値を持つ商品が提供されていることだ。内容的にみると標準商品よりも割安であったり、満足度の高いものであったりすることが多い。富裕層だからこそ、商品の選別にはシビアな目を持っているのだ。(編集担当:藤原伊織)