“ビール税一本化”が見送られた理由、昨年は「参院選に配慮」だったが今回は?

2016年10月29日 20:26

Beer Tax

コンビニの棚を埋める「ビール」と「ビール類」の数々。対年度には税金が統一に向けて動き始めるはずだったが、昨年に続いて今回も見送りに……

 10月26日、NHKニュースをはじめとした大手メディアが、「財務省は、麦芽比率などに応じて税額が異なるビール類の段階的な酒税の一本化について、2016年度税制改正で結論を見送る方針を固めた。2017年4月の消費税率10%への引き上げと同時に導入する軽減税率の制度設計議論を優先するため」と一斉に報じた。

 現在、ビール系飲料で分野ごとに価格・税金の違いを比べると、おおむねコンビニなどでは、レギュラー缶と呼ぶ350ml缶でビールは221円、うち酒税が77円。発泡酒164円・酒税47円、第3のビール143円・酒税28円となっている。自民党税制調査会や財務省は、“味も飲み方も似ているのに税額が大きく違う”ことを問題だとして、2015年度税制改正大綱に「格差を縮小・解消する方向で見直し、速やかに結論を得る」としていた。

 自民党税調と財務省は数年かけてビールを減税する一方、発泡酒と第3のビールは増税し、全体の税収が変わらない55円程度に統一する案を検討。自民党税調では、2016年度改正に向け議論するとしていた。しかし、来年度の税制改正の焦点となる消費税増税時の軽減税率導入をめぐる与党協議が難航してビール業界との調整が遅れているのが実情だという。

 また、「年末解散」などの噂も飛び交うなか、与党内でも庶民に近畿の高い割安な発泡酒や第3のビールが増税になることで、「選挙に大きな影響が」と懸念する声が強まっており、来年度改正は見送りを決めたようだ。

 ビール系酒税統一に向けた見直し議論は数年前から政府内で出たり引っ込んだりしてきた。そうしたなかで、ビールよりも廉価であることを理由に発泡酒や第3のビール好んで購入してきた消費者の抵抗は根強く、2015年末の税制改正論議において、ビール税統一は、消費増税とともに参院選を睨んだ恰好で見送られた。

 ただ、中期的なビール類の酒税一本化の方針は撤回せず、消費税10%増税後の2017年度以降に、段階的に実施する見通し。ビール業界は、来年度改正するとしたビール類酒税見直しを織り込んで、来年度の商品戦略を立てていた矢先のことで、困惑の声も漏れている。

 国内ビール市場は,1994年をピークに縮小傾向を続ける。若年人口が減り、加えて若者のアルコール離れが起きた。消費低迷もあり消費量は落ちた。メーカーは購入しやすい節税ビールという流れを作った。国内ビール大手4社は、この20年以上にわたって、酒税の安いビール系飲料開発に明け暮れ、国内だけでしか通用しない商品開発に邁進した。そのため新興国を軸とするグローバル市場の争奪戦で後手を踏んだ。「ビールのような飲料」で競争する日本のビール業界は、世界で類を見ない「ガラパゴスな市場」となったのである。

その歪んだともいえる競争は1994年に勃発する。サントリーが発泡酒「ホップス」を発売したのだ。麦芽の量を通常のビールの3分の2以下に抑え、「節税ビール」を売り出したのである。以降、高い税金を逃れる「ビールもどき」の飲料にメーカーはしのぎを削るわけだ。麦芽ゼロでもビールに似た味に仕上げ、莫大な宣伝費を投入して売る。業界で「第3のビール」がデフレ経済のなかで人気商品となった。「技術革新」と呼ぶか「邪道」とするかは人それぞれだ。が、日本のビール市場が世界のビール業界のベクトルとは違う方向に向かってしまったのは確かだ。

財務省は「ビール税制の一本化は目指すが酒税全体では中立的とする」という。ビールの税金を下げ、発泡酒や第3のビールの酒税を上げる方向で調節するとしていたが、今回の「酒税の一本化、見送り」は、何を意味するのだろう。冒頭で述べた「年末解散」があるのか?(編集担当:吉田恒)