第3のビールが消える? 酒税を巡る「ビール20年戦争」は終るか? ビール系飲料の税率変更

2015年09月05日 19:18

Beer Tax

現在、コンビニなどで350ml缶が138円(税別)程度で販売されている「第3のビール」類。税制改革後は酒税だけ27円上がって価格は165円(税別)となる。ふつうのビールは22円値下がりするので、ほぼ200円(税別)となりそう。価格差35円でディスカウンターなどでは差はもっと縮まる。「第3のビール」は生き残れるか?

 政府と財務省は、ビール系飲料にかかる酒税税額を統一することを決めたもよう。右肩下がりで減少が続く酒税の税収アップを狙うことが目的だ。ビール各社はこれまで売上アップを狙ってビールより税金が安い「発泡酒」や「第3のビール」で熾烈な開発競争を行なってきた。国としては、ビール系飲料にかかる税を統一して税収を確保し、海外でも通用する本格ビール開発につなげたい考えだ。

 現在のビール系飲料の税額は350ml缶の場合、ビールが77円、製品価格の46.6%におよぶ。これはドイツのビール税の17倍だ。ところが、麦芽(Malt)比率が25%未満の発泡酒は47円、麦芽を使わない商品も存在する「第3のビール」が28円。その差は49円と決して小さな額ではない。財務省は、全体の税収が変わらない水準の55円を目安に税額を統一する方針で臨む。この税率変更で、ビールの小売価格は下がり、増税の発泡酒・第3のビールは値上がりする。財務省としては、年末にかけて与党やビール各社と調整し、来年度の税制改正に盛り込むことをめざす。

 発泡酒が世に出たのは、1994年。サントリーが発売した「ホップス」だ。以来、発泡酒や第3のビールは、高い税金を払わないで済むビール系飲料としてビール大手の開発競争・商品化が進んだ。そのためか、94年度に2兆円超だったお酒の税収は20年で約40%も減った。この先も種類関連での税収アップは望めそうにない。財務省はこれ以上第3のビール系飲料開発競争が進み商品ラインアップが増えると、税収がさらに減るとして、昨年からビール系飲料の税額を統一する方向で検討していた。国税庁とビール各社の酒税をめぐる綱引き(酒税の安いビール系飲料開発)に終止符を打つのも狙いのひとつだ。

 同時に、ビールの定義も拡大する。日本国内では1908年に麦芽(Malt)やホップを使い、麦芽の使用比率は67%以上と法律で定めたが、オレンジピール(果皮)のような香料を使うことを認め、麦芽比率も引き下げる方向で見直す。

 欧州製ビールなどでは、麦芽使用比率を50~67%するところが多い。現在の日本の税制では発泡酒の扱いとなるが、麦芽比率25%未満の日本メーカーの発泡酒と違い、ビールと同じ税金を払う規定になっており、EUが見直しを求めていた。

 国内ビール市場の縮小はメーカーでも分かっていた。それなのに国内ビール大手のこの20年の施策をみると、国税との綱引き、つまり酒税の安いビール系飲料開発の「20年戦争」に明け暮れて、国内だけでしか通用しない商品開発に邁進した。そのため新興国を軸とするグローバル市場の争奪戦で後手を踏んだ。

 その間に国内ビール大手は国際的な競争で負け組ともいえる状況に陥っている。発泡酒が登場した20年前、キリンの株式時価総額はオランダ・ハイネケンの2倍だったが、現在は30%程度といわれる。世界最大手のベルギーのアンハイザー・ブッシュ・インベブの時価総額は今期24兆円とも言われる。が、日本の上場3社(アサヒ、キリン、サッポロ)合わせても4兆円に満たない。世界で通用しない酒税法対策の技術革新に気をとられすぎていたわけだ。

 政府・与党は、今回ビール税率改訂で、技術革新をゆがめない中立な税制をつくり、「ビール税20年戦争」の“勝者なき戦いを集結させる”とキレイごという。が、本音は財務省主導の「取りやすい所から」取る、税収の確保にあるのは間違いない。このビールを巡る税制改革で「第3のビール」が市場から消える?(編集担当:吉田恒)