現役世代と高齢者 税負担は本当に不公平なのか

2026年06月26日 09:33

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現役世代から高齢者まで多様な世代が行き交う都市の風景。税負担の公平性を巡る議論では、世代間の印象論だけでなく、所得構造や控除制度を踏まえた客観的な分析が求められている。(写真:イメージ)

今回のニュースのポイント

財務省財務総合政策研究所(PRI)の研究者らは、現役世代と高齢者の税負担の違いを所得分布や控除制度の観点から分析したディスカッション・ペーパーを公表しました。分析では、両グループの平均税率差が3%程度ある反面、給与所得控除と公的年金等控除はいずれも5%程度と同等の負担軽減効果を有しており、単純な高齢者優遇という印象論だけでは説明できない実態を示しています。なお、本論文の内容はすべて執筆者の個人的見解であり、財務省や財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。

本文
 少子高齢化にともなう社会保障制度の維持や家計の税負担の見直しが不可欠となるなか、所得税や住民税のあり方を巡る議論が活発化しています。市場や世論では現役世代と高齢者の間の負担格差について様々な議論が交わされますが、その負担差がどのような構造によってもたらされているのか、客観的なデータに基づく冷静な点検が必要となっています。財務省財務総合政策研究所(PRI)が公表した最新のディスカッション・ペーパーは、総務省統計局の『全国家計構造調査』の個票データを活用し、現役個人と高齢個人の税負担格差を「所得構造」と「控除制度」に要因分解して検証を試みた研究成果です。

 研究チームがグループ間の税負担率の格差を検証するアプローチとして採用したのが、所得分布の違いに起因する「垂直的要因」と、同一所得階層内で生じる「水平的要因」に分離する「GATRD(グループ間平均税率格差)」の計測手法です。1989年から2019年にかける30年間の長期データを分析した結果、給与収入を得ている現役個人と、公的年金収入を得ている高齢個人の間には、全体として3%程度の平均税率の差が存在することが確認されました。

 しかし、この3%の負担率格差のうち、同一所得階層内でのグループ間の差を示す「水平的要因」による実質的な格差は1%程度に留まっています。残りの約2%分は累進課税体系のもとでの両グループの所得分布の違いという垂直的要因から生じており、単純な高齢者優遇では説明できない実態をデータは示しています。

 さらに本論文がマイクロシミュレーションによって算出した、各種の控除制度が与える税負担の軽減効果の大きさは、現行制度の実態を伝える客観的なデータを提示しています。現役個人の必要経費を概算する「給与所得控除」と、高齢個人の雑所得を相殺する「公的年金等控除」の負担軽減効果を比較した結果、いずれも全体の税負担率をおよそ5%程度引き下げる同等の効果を有していることが判明しました。

 一般には高齢者向けの年金控除のみが手厚い優遇措置であると捉えられがちですが、実際には現役世代が享受している給与所得控除もマクロの税負担構造において同規模の強い負担軽減効果を発揮しており、双方が水平的な負担格差をそれぞれの方向に動かし合う関係にあります。

 所得階層別の詳細な平均税率を観察すると、年収が400万円から700万円未満の中所得層までは現役個人の平均税率が高く推移する反面、年収700万円以上の高所得層に達すると、むしろ高齢個人の平均税率の方が現役個人を上回る逆転現象が発生しています。これは、公的年金等控除の負担軽減効果が主に低所得層に集中して発現し高所得層では減退する一方、給与所得控除の効果は幅広い所得階層にわたって一定の軽減効果が及び続けるという、控除制度の設計上の特性が影響を及ぼしている背景にあると考えられます。

 日本の個人所得課税は手厚い控除によって課税ベースが浸食され、税の財源調達機能や再分配機能が抑制されているとの指摘もありますが、本研究はこうした控除の存在が所得源泉の違いによる負担差をもたらし、税制の水平的公平に影響を与えている側面があることを明確に読み解いています。

 高齢化にともなう人口動態の変化が進む日本では、感情的な世代間対立の構図ではなく、エビデンスに基づく客観的な税制論議が不可欠となっています。経年変化の分析からは、高齢化という非制度変更要因が水平的な税負担格差を押し上げる圧力をかける反面、これまでの断続的な税制改正という制度変更要因がその格差を抑制する効果を果たしてきた構造もうかがえます。

 今回のディスカッション・ペーパーは、特定の政策を直接提言する性質の政府公式見解ではありません。しかし、担税力に応じた負担を求める「垂直的公平」と、等しい所得には等しい負担を求める「水平的公平」の双方をいかに調和させるかという、今後の持続可能な税制設計や公的負担のあり方を点検するうえでの極めて誠実なデータ分析の足場を提供しています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)