理研が実現したネットワーク内部情報の統合の定量化とは

2016年12月08日 08:09

 私たちの「意識」はどのように生み出されているか? 現在の脳科学では、脳内の神経細胞同士が密に情報をやりとりすること、つまり「情報の統合」が必要であると考えられているという。単純なデジタルカメラと脳の情報処理の違いを例にとると、デジタルカメラの中に存在する多くのフォトダイオードは独立に情報処理を行っているだけで、情報のやりとりはなく、したがって情報は統合されていない。すなわち、デジタルカメラ自体は見ているものを意識することはできないと考えられる。一方、脳内ではそれぞれの神経細胞が処理した情報を神経細胞同士がシナプスを介してやりとりをすることによって情報が統合されるため、私たちは豊かな意識体験を持つことができると考えられるという。

 意識の統合情報理論には、「統合情報量(脳内で統合される情報の量)」が意識レベルに対応しているという仮説がある。意識レベルとは、完全に目が覚めている状態から睡眠まで連続的に変化する意識の量のことである。この仮説が正しければ、植物状態や麻酔下にある患者など意識状態の判別が困難な状況でも、脳活動から統合情報量を計測することによって客観的に意識レベルを測ることができる可能性があるという。しかし、これまでに提案されたネットワーク内の統合情報量の「指標」には数学的な問題点があった。

 そこで、理化学研究所を中心とした国際共同研究チームは、情報統合の定量化を目標に「情報幾何学」という手法を用いて、情報統合量の新しい指標を見出した。ネットワークの要素(脳であれば神経細胞)間の因果関係の影響を階層的に定量化する“数学的な枠組み”提案し、この枠組みの中で情報統合量を一意的に導出した。ここで、因果関係の影響とは、過去の状態が未来の状態に与える影響のことを指すという。さらに、同じ枠組みから移動エントロピーなど既存の指標も導出でき、“ネットワーク全体の相互情報量 > 統合情報量 > 移動エントロピー”という大小関係が成立することも分かった。これにより、従来の数学的問題を解消できたとしている。

 この手法は、神経ネットワークの解析に用いることにより意識レベルの定量化につながる可能性があるほか、ソーシャルネットワークなどより一般的なネットワークの解析にも適用することができる。今後、複雑なネットワークの新たな解析手法として幅広く利用されると期待できるとしている。(編集担当:慶尾六郎)