理研がゲノム編集で新技術 病変部位を直接修復が可能に

2016年12月05日 08:13

画.理研か_ケ_ノム編集て_新技術 病変部位を直接修復か_可能に

理化学研究所を含む国際共同研究グループは、別のDNA修復機構を利用したゲノム改変技術「HITI(ヒティ)」を開発、神経細胞や心筋細胞を含む非分裂細胞内ゲノム改変が可能となった。従来のゲノム編集では細胞が活発に分裂する最中に起こる相同組換え修復(傷ついたDNAを修復する機構の一種)の仕組みを利用した方法が取られていた。

 DNA切断酵素を利用して遺伝情報を変化させるゲノム編集は、これまで治療不可能だった難病への治療法開発が期待できるなど医療やさまざまな産業へのインパクトから、バイオテクノロジーのなかでも注目度の高い分野だ。市場調査・コンサルティング提供のマーケッツ&マーケッツの調査によると、ゲノム編集の世界市場規模は2014年の18億ドル超から19年には35億ドル超に拡大するとのこと。ゲノム編集に関する研究では、米カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授らによる「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)」(遺伝子情報を正確かつ簡単に安く操作できる技術)がノーベル化学賞の有力候補となり有名となったが、同技術を応用した米ペンシルベニア大学の臨床研究承認手続きが進行するなどスピード感のある分野だ。国内でも9月に第一回となる日本ゲノム編集学会が開かれており、研究開発が加速している。ゲノム編集の医療応用に関する研究はまだ始まったばかりだが、すでにいくつもの有益な成果が発表されている。

 今回、理化学研究所を含む国際共同研究グループは、別のDNA修復機構を利用したゲノム改変技術「HITI(ヒティ)」を開発、神経細胞や心筋細胞を含む非分裂細胞内ゲノム改変が可能となった。従来のゲノム編集では細胞が活発に分裂する最中に起こる相同組換え修復(傷ついたDNAを修復する機構の一種)の仕組みを利用した方法が取られていた。そのため、細胞分裂が活発な皮膚の表皮細胞や腸の上皮細胞など、特定の細胞でしか同技術が適用できなかった。

 同技術を用いることでヒトの培養分裂細胞では、従来法の約10倍、非分裂細胞では、マウス胎児由来の培養神経細胞において高効率での遺伝子挿入が確認された。さらに、HITIシステムを細胞内に直接導入するために、生体内での遺伝子導入に優れたアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた「HITI-AAV」を作製。生きたマウスへの局所注射により組織・器官の目的部位のみに遺伝子挿入できた。また、HITI-AAVの静脈注射により心臓、肝臓、筋肉など全身の組織・器官の細胞3~10%で標的配列の改変を確認した。

 生後3週齢の網膜色素変性症ラットへ同技術を適用したところ、視覚障害の一部回復に成功。今後は神経、筋肉、網膜などの終末分化細胞への異常が表れる難治性遺伝病に対し、その原因となる異常遺伝子を病変部位にて直接修復する医療応用が期待できるとのこと。(編集担当:久保田雄城)