内部告発者を保護する法律、公益通報者保護法の保護対象を現役の労働者だけではなく、退職者や役員にも範囲を広げることが検討されているが、報復人事への刑事罰が存在しないことや、運用体制の未熟さが指摘される。
消費者庁は内部告発者を保護する法律、公益通報者保護法の改正を検討している。同法は企業や公官庁の不正を通報する内部告発者に対して解雇や減給といった不利益な扱いを防止するために2006年4月より施行。これまでは該当する企業や公官庁に現役で所属する労働者のみに適用されてきたが、今後退職者や役員にも適用範囲を広げる方針だ。退職者に対しては再就職の妨害、役員に対しては解任や再任拒否といった報復が考えら、今回の検討に至った。更に今後は不正行為を行う事業者の取引先も対象に含めるか否かを議論していくという。
また、これまで内部告発の通報先は「事業者内部」「警察や検察、監督官庁」「マスコミ・消費者団体」の3つに限られていたが、新たに消費者庁にも窓口を設け、企業や公官庁の不正発覚に力を入れていく方針だ。国交省も三菱自動車やスズキの燃費不正表示を受けて、不正行為に関する内部告発の窓口を設置するなど、内部告発を促進させていく動きが見られる。
法改正と窓口設置、そして官庁の呼びかけによって不正告発は今後増えていくことも予想されるが、問題点も残っている。現行法では解雇や減給といった報復人事を行なっても事業者には刑事罰が課せられない「努力義務」となっている。この点も今後改正する必要があるだろう。
更に内部告発保護の運用の在り方にも問題点が残る。宮城県の更生保護施設で働いていた男性幹部職員が法相あてにパワハラ行為の告発文を実名入りで送ったところ、上司である施設長に告発文がそのまま渡り、幹部職員は「告訴を検討している」と圧力をかけられ、ストレス性疾患になった。
内部告発は勤務先からすればいわば「裏切り行為」となる。勤め人にとっては多大な覚悟が必要となる。法整備が為されても、運用体制が未熟なままでは内部告発者の保護は難しい。以前と比較すると内部告発ができる仕組みは整ってきたとはいえ、まだまだ検討課題は多いと感じる。(編集担当:久保田雄城)