近ごろ、「ロボット」が世の中に急速に普及しはじめている。IT分野の専門調査会社として知られるIDCが2016年2月に公表したロボット産業の動向予測レポートによると、2015年の世界のロボット関連の市場規模は710億ドル。同社は今後、年平均17%増で推移していくとみており、19年にはおよそ2倍近い1354億ドルにまで拡大すると予測している。中でも、産業用ロボットの成長は目覚ましく、活用分野も急速に増大しているのだ。
産業用ロボットの主戦場はこれまで、自動車産業などの製造分野が中心だった。実際、産業用ロボットの約7割が自動車工場の製造ラインに設置されているという。車体の塗装や溶接をオートメーションで行ったり、重量のある部品などをロボットアームで運んだり、今や自動車業界は産業用ロボットなしでは成り立たないほどだ。ところが最近では、これに加えて、エレクトロニクス業界、鉄鋼業界をはじめ、物流や食品、医薬品、化粧品業界など、様々な業界の最前線で見かけるようになってきた。ロボットに組み込まれるセンサやモーターなどの性能が著しく向上したこと、さらにはロボット自体の小型軽量化などによって、細かい作業や複雑な作業、劣悪な環境下での動作も可能になり、活用の幅が広がっているためだ。
この成長を後押ししているのが、日系メーカーの技術力だ。先進各国の中でも日本はロボット先進国といわれており、日系メーカーの存在感は世界的にみても圧倒的だ。しかも、産業用ロボットの需要は70%以上が欧米各国や中国の産業メーカーへの輸出が占めている。産業用ロボットは日本国内だけでなく、グローバルに成長している市場というわけだ。
当然、日本政府もロボット産業の成長には大きな期待を抱いており、2015 年 1 月に公表した「ロボット新戦略」においては、産業ロボットの市場規模を現在の6000億円から、東京オリンピックが開催される2020年までに1兆2000億円へと成長させることを目標に掲げている。
とはいえ、この目標を実現するためには、いくら日系メーカーが高い技術力を持っているとしても、現状維持を続けているだけでは到底叶わないだろう。市場規模をたった5年で倍加させ、国内はもとより海外市場でも、その地位を不動のものとするためには、さらなる努力と、他国のメーカーの追随を許さない革新的な技術開発が必要だ。
自動車業界だけを見据えていたのでは頭打ちになる。今後は拡大傾向にある他の業界にも目を向けなければならない。例えば、エレクトロニクス業界では、軽いものをより正確に且つ高速に処理するロボットが求められるだろう。また、大規模な工場だけでなく、中小企業での小規模な工場での需要も増えることが見込まれており、これに対応できる省スペースで小回りの利く産業ロボットも必要になってくる。人が混在する環境で共に働くロボットには、これまで以上に、安全性と操作の利便性が求められる。
日系のロボット関連メーカーの動きを見てみると、主要なメーカーはさすがに、これらの条件を見据えた製品開発を行っているようだ。
最新の動向では、ヤマハ発動機が2016年10月に発表した統合制御型ロボットシステム「Advanced Robotics Automation Platform」が面白い。これは、ワーク搬送も含む、ハンドリングや画像認識、周辺機器制御といった自動化システム全体を、たった1台のコントローラで包括的に協調、同期制御を可能にしたものだ。複数のロボット製品をコントローラ1つで統合制御できるので、高度化する自動化生産ラインの設計も簡素化し、しかも低コスト且つ短期間で構築できる。スペース効率の向上にも貢献するうえ、昨今話題のモノのインターネット・IoTとの親和性も高いというから、将来性もある。
ヤマハ発動機は、これまでにも産業ロボット本体のみならず、画像処理システムや搬送リニアコンベアモジュールに至るまで、産業ロボット周辺をトータルに幅広くラインアップしている。「Advanced Robotics Automation Platform」はいわば、これまでの経験で培った集大成ともいえるものだ。
さらにヤマハ発動機は「Advanced Robotics Automation Platform」対応の新製品として、拡張性に優れ、スペース・コスト・セットアップ工数を大幅に削減し、システムの核となる 統合コントローラ「YHX」シリーズをはじめ、スペース効率、搬送精度、加減速性能向上を実現するリニアコンベアモジュール「LCM-X」、単軸ロボットの新シリーズ発売 ACサーボモータ仕様「GX」シリーズとステッピングモータ仕様「YLE」シリーズ、スカラロボット「YKX」シリーズ、ロボットカメラ「YFAEYE (ワイ)」などを続々と発表。拡大する産業用ロボット市場に万全の構えを見せている。
ヤマハ発動機の他にも、生産台数で世界シェア1位を誇る安川電機は、2013年に中国で日本の産業用ロボットメーカーとしては初の産業用ロボット専用の工場を開設したり、半導体向けクリーン産業用ロボットで40年以上の実績をもつ川崎重工業も、自動車分野以外でもシェアを伸ばしており、日本メーカーの世界的な活躍が目覚ましい。
とくに、中国では産業用ロボットの需要が急速に拡大しており、巨大なマーケットが形成されようとしている。とはいえ、中国メーカーも台頭しており、日本メーカーとの競争が激しくなりつつある。このまま、日本メーカーが産業用ロボット市場での世界シェア1位を維持し続けられるか、2017年が大きな正念場となりそうだ。(編集担当:藤原伊織)